長い雨のあと、流れ込んできた泥で池の水は黄色く濁っている。
裸の木は濡れた黒い幹を逆さまに映している。
透明な水に映るときよりも、なまめかしい強さがある。
黄色い泥のせいかもしれない。
鏡が朱泥によってガラスの透明を失い、透明な反射を手に入れるように、
池は濁りを体内にためこむことによって
つややかな色を水面にひろげる。
共犯、ということばが割り込んでくる。いま、ここにはない比喩と結びつき、
意味をつくりたがっている。その欲望。
しばらく放っておいて、まだ放っておく、そしてことばは少し引き返す。
水中をまさぐるように幹から分裂して潜っていく黒い枝の間には
灰色の空がやはり逆さまに映っている。
この空が逆さまに映るということばは、つまらない観念か、
あるいは発見か。
うまくいかない--詩にならない。
共犯の方へついていけばよかったのか。
コンビニエンスストアで買ってきたエッグサンドを噛み散らしながら
ことばは考える。考えをやめるためには
石でも投げ落として池のそこからさらに濁った泥を噴き上げさせるしかない。
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