小松正二郎『聲』 | 詩はどこにあるか

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小松正二郎『聲』(モノクローム・プロジェクト、2022年10月20日発行)

 

 小松正二郎『聲』は強い声に満ちている。詩集のタイトルになった「聲」の書き出し。
「聲がする。あなたの弟の血が大地からわたしに叫んでいる。」

この一日に終わりは来ないだろう
陽は垂直に上昇し再び帰らないだろう
明け染める紅は東天の栄光を返上するだろう
日も月も年も円環の巡りを放棄するだろう

 これは「現実」の描写ではない。では、何を描写しているのか。「だろう」ということばに注目すれば「未来」である。つまり、これは「予言」である。「予言」なのだが、「だろう」が「予言」を隠している。現代において「予言」は効力を失っていて、どうしてれ「推測」に終わってしまう。それを再び「予言」にするには、ことばに強い響きが必要である。たとえば「陽は垂直に上昇し再び帰らない」。このことばが象徴的だが、これは私たちの知っている「日常(現実)」の法則を超えている。だからこそ、「予言」でもあるのだ。
 すべての行から「だろう」を取り去って

この一日に終わりは来ない
陽は垂直に上昇し再び帰らない
明け染める紅は東天の栄光を返上する
日も月も年も円環の巡りを放棄する

 でもいいのだが、それでは「空想」になる。だから「だろう」を小松は補っている。ということは、それにつづくことば「だろう」を補って読むと、小松の書いていることが明確になる。
 「だろう」を補って引用してみる。

もう肩車もできないだろう
ぼくは
こどもたちが怖がらないように
そっと後ろから近づくだろう

 「だろう」がない原文よりも「リアリティ」が強くなることがわかる。
 「予言」は「言う」ということであり、「言う」とは「ことばを存在させる」ということである。「ことば」が「できごと」を「事実」そのものに高めていく。
 「天使論」の書き出し。

基督教グノーシスの一派はエデンの蛇にイエスを視たと言う。

 この「言う」は「証言」である。「証言」であることによって、「予言」になる。ことばの強さが「時間を超える」のである。
 あらゆる動詞の最後に「だろう」「と言う」を補って読むと、小松の詩はわかりやすくなる。ここに書かれているのは、事実の報告ではなく、「事実」をことばによって「真実」に変えるという行為、あるいは「真実」を「事実」にひきもどすという行為である。
 そして、そこには「事実」や「真実」があるのではなく、「事実」「真実」を語る人間が存在するということがある。「予言」が「予言者」を必要とするように、この詩集のことばは、小松という詩人を必要とした。そういう詩集である。

 

 

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