工藤正廣「出会いと別れのあかるさ」 | 詩はどこにあるか

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工藤正廣「出会いと別れのあかるさ」(「午前」19、2021年04月15日発行)

 工藤正廣「出会いと別れのあかるさ」は大学の恩師のことを書いている。とても美しい連がある。

あなたはその日その日の手書きの詩をぼくに渡してくれた
これまでみたこともないような美しい筆記体のキリル文字だった
それを受け取って授業の前にプリントするのが
ぼくの役目だった
あれは何という名だったろう
乾湿プリンターだった?空色の液体のなかに用紙をくぐらせ
そして出てきたプリント用紙はうっすらと湿ったライラック色
アレクサンドル・ブロークの詩のテクストは
あなたの手蹟で まるでネヴァ河の波から現れたとでもいうようだ
乾くまでのあいだ しばしぼくは湿った用紙から生まれる詩句を見つめる

 工藤が書いているプリンター(?)を私は知らないが、次世代のコピー機も似たようなものだった。湿って、濡れている。ライラック色ではなく、灰色だったような気がする。文字が浮き出てくるのはいいが、時間がたつと消えてしまう。
 工藤のことばが美しいのは、コピー(プリント)の過程のなかに時間があるからだ。「くぐらせる」「出てきた」という動詞をつきやぶって、「現れた」という動詞がライラックの花が咲くように動いてくる。
 ネヴァ河(の波)を、そのとき工藤が知っていたかどうか、わからない。たぶん学生だから、実際には、まだ見ていないだろう。しかし、写真や雑誌などで見たことがあるかもしれない。あるいは地図を見ながら何度も想像したかもしれない。そして、その想像は、単なる想像ではなく、工藤の「肉体」にしみついた「思想」になっていただろう。それを突き破って、知らなかったもの、しかも「ほんもの」が、まるで花が開くように、自らの力で生まれてくる。
 それは「美しい筆記体のキリル文字=手蹟」をさらに突き破り、「アレクサンドル・ブロークの詩句」になる。詩句になりながら、また、「美しい手蹟」であることをやめない。ふたつは「ひとつ」になって、そこにある。
 ここに書かれているは「記憶」である。しかし、その「記憶」は「いま」生きて動いている。「ぼくは湿った用紙から生まれる詩句を見つめる」と現在形で書かれるのは、そのためである。
 詩は、つまり充実した時間は、いつでも「現在」である。

 

 


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