犬飼楓「前線」 | 詩はどこにあるか

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犬飼楓「前線」(書肆侃侃房、2月7日発行)

犬飼楓「前線」は歌集。
コロナ最前線の医療現場の声が聞こえる。
タイムリーな歌集だが、急ぎすぎたのか、ことばが肉体を離れ、意味になろうとしている。
そのなかで私が目を止めたのは。

文句言う先がなければゴミ箱に黙って手袋深く沈める

「深く沈める」に、肉体の動きがあり、深くも、沈めるも、そのまま強く響いてくる。

「し」と打てば「新型」と出る電カルの予測を超えて「信じる」と打つ

この歌も「打つ」に魅力がつまっている。打つとき、打たれるものは自己ではない。自己の手を離れたものに何かを託す。そういう「打つ」があることを教えてくれる。
祈るではなく、「信じる」が、そのとき強く響く。