こころは存在するか(51) | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

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 肉体は存在する。ことばは存在する。しかし、「こころ」は存在しない。こころは、ことばが動くとき、その動きとして瞬間的に存在するだけである。それは、たとえていえば100メートルを走る。その運動のなかで「走る」という運動が瞬間的に存在するだけで、100メートル走ってしまえばその運動はどこにも存在しないのと似ている。
 こんな例では、わからないだろう。しかし、次の例では、どうだろうか。
 大岡昇平全集3に「清姫」という短編がある。いわゆる「娘道成寺」の「大蛇」の書き直しである。その最後の部分。

法華経方便品「若有聞法者無一不成仏」とあるを、天台宗は「一として成仏せざるなし」と読んでいるが、法相宗では「無の一は成仏せず」といっているから、およそ言語の不確実なのは、聖典も小説もかわりはないものと見えた。

 「こころ」とは「解釈(読み方)」のようなものである。人が違えば同じことば(文字)でも「読み方」が違う。肉体(人間)のかかわり方によって、違う意味(解釈)があらわれてくる。そして、この「肉体」というものは、日々、あるいは一刻一刻同じではないのだから(ちょうど100メートルを走っている肉体のように)、その肉体が解釈するものも常にかわる。
 天台宗の読み方、法相宗の読み方も、それを読むひとによって理解の仕方は違うだろう。そういう「決まった何か」がないのとおなじように、ことば「若有聞法者無一不成仏」はだれも否定することができない形で存在するが、「意味/解釈」は、そのときそのときでかわっていく。そういうものを「存在している」ということには、私は抵抗がある。
 それは、あらわれては、かつ消えていく。

 宗教においてでさえ、そうなのである。ふつうの人間なら、なおさらそうだろう。

 大岡昇平の小説に登場する人物、たとえばある女は、あるときは男を愛していると思い、あるときは憎んでいる。愛と憎しみは正反対のものであるはずだが、それはぴったりとくっつき、どっちがどっちかわからない。瞬間的に愛の方向に肉体が動き、別の瞬間に憎しみの方向に動く。そして、それはほんとうの「こころ」なのか、「こころ」について嘘をついての行動なのかも、実は、あやふやである。こころは、こころに対して嘘をつくこともできる。

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