実名小説『DAZZLING』 第72話『KTN30』
『…いやぁ…なんだか久しぶりだねぇ…
こうやってみんな集まるの…
KTN30やってた頃は毎月集まってたんだけどねぇ…
そのうちみんな忙しくなっちゃって…なぁ…』
パンチは嬉しそうにリエの器にちくわぶをよそいながら話した。
『…KTN30 …って川口で楽しく飲もうよ毎月30日に…だっけ?』
マコトはちくわぶを口に入れると笑顔で答えた。
『…そうそう…
だけど何故か毎回マコっちゃんとこの国武社長が現れるもんだから…
国武にたくさん飲ませてもらおう30万円…
なんて言っていつも支払いあの人にさせてたじゃん…
楽しかったよなぁ…』
大塚は誰よりも嬉しそうに話すと目の前の大根を口に入れた。
『…そうだよなぁ…あの人元気にしてんの?マコっつぁん…』
パンチの問いかけにマコトはコンニャクを噛みながら答えた。
『…うちの社長かぁ…実はもう1年位会ってないし…
話もしてないんだよ…
内装会社の方は山本さんに任せっきりだし…
こっちはこっちで俺がまとめてるし…
決算書とか新規事業の報告書は定期的に送ってるんだけど…
なんか言ってくるわけでもないしなぁ…
ハワイでのんびりしてるんじゃないかなぁ…』
『…だって…向こうではロコモコ屋やってんだろ?』
大塚は露を飛ばしながら焼きちくわを口に入れるとマコトに問いかけた。
『…やってはいるみたいだけど…
あそこはあそこで人いるしなぁ…
本気で伝説のサーファー目指してんのかなぁ…』
『…そのうちデルモのチャンネーとシースー行きてぇー!…
とか言って帰ってくるんじゃないの…
あの人外人ダメだもん…
日本人のデルモのチャンネーが恋しくなってくる頃だよ…なぁー!…』
大塚はタマゴをきれいにふたつに割ると半分をマコトの器に入れた。
『…おう…サンキュウ…
そうかもね…あの人基本的に寂しがり屋だからなぁ…
そろそろホームシックになる頃かもな…』
そういってマコトは大塚にもらった半分のタマゴを口に入れた。
その時マコトの携帯電話が音を立てて鳴り響いた。
マコトはその着信名を確認すると急いで通話ボタンを押した。
『…もしもし…』
『…ラックか…俺だ…ケビンだ…』
ケビンのその慌てた声にマコトは一抹の不安を感じていた…。
実名小説『DAZZLING』 第71話『停滞』
『…マコトさん…
それにしても、その後ケビンさんからも何も連絡ないんでしょ…
そろそろ何かしら動いた方がいいんじゃないですか?』
ヒトシの言葉にマコトはパソコンのキーボードから手を離した。
ケビンとの横須賀での再会から1カ月が経とうとしていた。
『…何かしらって…
何しろって言うんだ…
ケビンさんは連絡を待てって…そう言ってたんだぞ…』
『…だからぁ…それにしたってもう1カ月ですよ…
レイだって他殺って事で警察は動いてるみたいだし…
もしそのオリビアさんやニーナさんにも危険が及ぶことがあってからじゃ遅いじゃないですか…』
ヒトシの言葉にマコトは語気を強めた。
『…そんなこと…
そんなことお前に言われなくてもわかってる…
ただ…これだけ手がかりがないんじゃ…
何にも手が打てないだろう!』
『…だからぁ…
ケビンさんにオリビアさんの居場所聞いて行けばいいじゃないですか…』
『…そんなこと…ケビンさんには何度も問い合わせたよ…
だけど少し待てって…そればっかりなんだよ…
何かそうオリビアが言ってるみたいなニュアンスなんだ…』
マコトのさみしそうな態度にヒトシはそれ以上の追及は出来ないと感じた。
『…そう…そうだったんですか…
まったくオリビアさん…何考えてるんですかね…』
『…いや、俺の方こそずっと不義理をしてたんだ…
オリビアの事を責められる立場じゃない…』
『…マコトさん…
そうですね…あんまり考えててもしょうがないし…
今夜は久しぶりにパーッと行きますかぁ…
そうだ!大塚さんやネリエちゃん…丸さんや杉ちゃん…
昔からの仲間みんな呼んでパンチさんとこで…
おでんパーティーしましょう!…
よーしっ!今日は飲むぞぅ!』
ヒトシの言葉にマコトは苦笑した。
『…おい…
そんなこと言ってまた開始1時間で寝ちゃうんだろう…
後始末が大変だからお前は来なくていいよ…
みんなに連絡だけしといてくれ…
それにお前来週の新メニュー開発まだ終わってないんだろ…』
マコトの言葉にヒトシは肩を落とすと黙って部屋を出て行った…。
実名小説『DAZZLING』 第70話『胸像』
『…こんばんわ…』
男はカウンターに座ると幸村に笑顔を見せた。
『…ああ…あなたは…いつぞやの…
またいらしてくださったんですね…
ありがとうございます…』
幸村の言葉に男は笑顔で返した。
『…いや…こちらのお店は初めてですよ…
以前は別の店でしたから…』
『…そうでした…申し訳ありません…』
『…いや…あの時このショックオンという店の名前の由来をお聞きして…
一度伺おうと思っていたもんですから…』
男の言葉に幸村は頷くと笑顔で答えた。
『…ありがとうございます…ゆっくりしていってください…
えーっと…そうだ…今日もグレープ・ウォッカ・フロスでいきますか?』
男は幸村の言葉に微笑みながら頷いた。
『…はい…お願いします…』
幸村はシェイカーを手にとるとカクテルを作り始めた。
『…ところで…
この間お話いただいた…
ここの経営者の方ですが…』
『…はい…ここの社長は今海外におりまして…
ここ何年も日本にはおりません…
その代わりに専務の佐々木というものが責任者としております…』
『…このカクテルのレシピはその方が…』
男の問いかけに幸村は頷いた。
『…はい…そうです…』
『…そうですか…この間このカクテルを頂いてからずっと…
懐かしい昔の事を想い出してましてね…とても感謝してます…』
『…そうでしたか…
初めてのお客様にそう言っていただけると本当に嬉しいです…』
『…あっ…そうだ…』
男は何かを思い出したように自分のバッグから紙につつまれた物を取り出した。
『…これ…プレゼントなんですが…
懐かしい想い出のお礼です…
お店のどこかに飾っていただけたら…と思いまして…
胸像です…インデイアンの…』
幸村は突然の男の申し出に恐縮したように答えた。
『…だめですよ…こんな高価そうなもの…いただけませんよ』
『…いやいや…そんな高価なもんじゃありませんよ…
私の生まれたあたりでは魔除けにもなると言われてて…
縁起のいいものなんです…』
『…それならなおさらご自分で持たれてた方が…』
『…いや…あいにく私はまたしばらく日本を離れてしまいそうなんで…』
『…えっ!またどちらか海外へ?…
せっかくお知り合いになれたのに残念です…』
幸村の言葉に男は微笑むと胸像を指差した。
『…ではこうしましょう…
私が日本へ帰ってくるまでこれを預かっていてください…
どこかお店の隅の方にでも飾っていただければ…』
男の申し出に幸村は頷いた。
『…わかりました…
そういうことなら再会を願って飾らせていただきます…
必ずまたご来店ください…』
『OK … It understood.』
男の憂いを帯びたその横顔が幸村の胸をなぜか締め付けていた…。
実名小説『DAZZLING』第69話『いい女』
『…わたしです…マリです…』
マコトはマリからの国際電話を受けながら、オフィスから見える都会の雑踏をぼんやりと眺めていた。
『…うん…何か…何かわかったのか?…』
マコトの問いかけにマリは一呼吸置くと話を続けた。
『…本当に…本当に…ごめんなさい…
あなたの言う通りだった…
ニーナのお墓と言われたところには…
ニーナの…ニーナの墓標はなかったわ…』
マコトはその言葉に目を閉じ深く安堵の表情を浮かべた。
『…それどころか…
それどころか…サンドラも…
ニーナの叔母さんだったサンドラも…
引っ越してしまってどこにもいないわ…
近所の人にも聞いてみたんだけど…
行先はわからないと…』
『…手がかりはないと…ないということか…』
『…あなたの方は…
あなたはオリビアとは会えたの?…』
マリの問いかけにマコトはゆっくりと答えた。
『…いや…会えなかった…
ただ…いくつかの手がかりになることはあった…』
マコトはケビンとのやりとりを克明にマリに伝えた。
『…そう…よかった…
少しだけでも前進したのね…
わかった…
私はこれからポルトガル経由で少し仕事をした後、来週早々には日本へ帰るわ…
もし何かわかったら遠慮なく連絡してね…
何度も言うようだけど、私に出来る事は何でもするわ…』
マリの言葉にマコトは笑顔で答えた。
『…ありがとう…
それにしてもお前…
そうやって優しい言葉遣いになるといい女に感じるな…』
『…何よ!私は昔からいい女なのよ!あなたとあなたんとこの社長の国ちゃんぐらいよ!
私を馬鹿にしてヘルス嬢だとか…
スズリだとか…ゲリだとか…くそ女だとか…ションベン臭ぇとか…』
『…おいおい…ゲリとかションベンとかって…
いい女が遣う言葉じゃねぇぞ…
だいたい俺はそんな事言ってないぞ…
社長が言ってた事だろう…』
『…まあいいわ…
今回の事が終わったら改めて話合いましょう…』
マリはそう言うと電話を切った。
マコトは心の中で、うちの社長って本当にうまいこと言う人だなぁと改めて尊敬の念を抱いていた…。
実名小説『DAZZLING』 第68話『光と影』
『…ケビンさん…続きを…その話の続きをお願いします…』
マコトの言葉に追い立てられるようにケビンは話を続けた。
『…あ…ああ…村人達が病から生還したことなど知らない軍隊は、村に火を放ち村人ごとその伝染病を葬ろうとしていた…
そしてエスぺランザ…
希望という名のその村は火の海と化し…
全て闇に葬られた…』
『…惨い…惨い話ですね…』
マコトの言葉にケビンは頷いた。
『…ああ…ただオリビアは最後の光となったGOLDEN GATE …
それこそが…信じる心こそが…
全ての人を助ける…そう思っていた…
だから…自分の愛する店の名前にしたんだろう…』
『…ただ…レイの…
レイの創った GOLDEN GATEは…
絶望の歌に聞こえました…』
『…なあラック…人生とはそういうもんだろう…
同じ物語でも光と影がある…
とらえ方によってどちらにも転ぶんだ…
GOLDEN GATEにオリビアは希望を見出し…
レイは絶望を見出した…ただそれだけの事だ…』
ケビンの言葉にマコトは頷いた。
『…ラック…俺が知っている事はここまでだ…
お前これからどうする?…
オリビアに会いに行くか?…』
ケビンの突然の言葉にマコトは驚きの表情を浮かべた。
『…オリビアに…オリビアに会えるんですか?』
『…ああ…彼女もお前に会いたがってるはずだ…
ただ…ただこれだけは守ってくれ…
このことは絶対に他言するな…
そしてこれから先は俺の指示通り動いてくれ…
奴らに感ずかれでもしたら水の泡だ…
連絡はこちらからする…
それまでお前は普通の生活に戻っててくれ…
いいな…』
『…わかりました…ケビンさん…
本当に…本当にありがとうございます…』
マコトはケビンの手を両手で掴むと、ありったけの思いを込めて何度も何度も握りしめた…。




