窪美澄『たおやかに輪をえがいて』 | 空想俳人日記

窪美澄『たおやかに輪をえがいて』

 この間、窪美澄の『いるいないみらい』という短編集を読んだ感想で、こう書いたよ。
《これまで読んだ『ふがいない僕は空を見た』『よるのふくらみ』『晴天の迷いクジラ』『トリニティ』なども、全て長編(『ふがいない僕は空を見た』は、はじめ『ミクマリ』という短編で、その後、連作されたので長編扱いね)なので、同じテーマをあらゆる角度から、短編描写しているので、バラエティに富んでて面白かったよ。》
 でも、結局、今回、長編が読みたくて、思いっきり長い長編を選んじゃった。文庫で400ページあるよ。

窪美澄『たおやかに輪をえがいて』01 窪美澄『たおやかに輪をえがいて』02 窪美澄『たおやかに輪をえがいて』03

 主婦の絵里子さんが主人公。結婚生活20年。娘の萌ちゃんは20歳の大学2年生。旦那はんは、バーでひたすら文庫本呼んでた酒井さん。そんな夫の風俗通いや娘さんの偉い歳が上のバイト先の店長との危険な恋愛、愛してた父が不倫してたということや、その相手の母親は3度も結婚するなど、周りで不穏な空気や事件も起きるのに対し、絵里子さんは頑なに我慢して妻であること母であることを守り通してきた、波風が立たない凪の生活を続けたいがために。
 そんな彼女が、同級生の詩織さん(高級下着屋さんを営んでる)を中心に、そのパートナー(女性)やいろいろな人と出会い、一人旅、旅での出会う人、そして、一人暮らし、そうした中で、妻でも母でもない道、一人の人としての道を築きだす、のね。

窪美澄『たおやかに輪をえがいて』04

 話は、またボクの手前味噌なことになるけど、もう何年前だったかな、キャリアコンサルタントの勉強をしてたのよね、ボクの話。スクールにも通って、資格試験も受けて2つ通って、その頃国家試験も出来たんだけど、それは落ちたよ。
 そこで習ったことで、「ワークライフバランス」って言葉があるのね。このワークライフバランスが優れているのは、おもに男じゃなく女。いろいろな役割を人生のなかにになっている。男は。一つの仕事の顔しか持っていない。まあ、ここでいう、夫がそうだねえ。
 でね、大切なのは、女性が、妻であり母であり、仕事先での一員であり、ご近所付き合いのお隣さんであり、と、いろいろな役割を担っている、その素晴らしさ。だから、男が、ひとつの仕事で折れたり、仕事を失ったり、定年退職したりすると、一気に生きがいを失うのに対し、女性は、多くの役割を担っているわけね。
 でも、ここでの主人公の彼女のワークライフバランスに、欠如している者があるのよね。それは、詩織さんのような自己、個人としての自分、人間としての生きざま、なのよね。もちろん、旦那のために、娘のために、妻として母としてやってきた人生の道のりは大事だったけど。自分は何のために生きているんだろう。
 ボクは、もうひとつ、社会的役割を担うと言うと、アドラーの心理学を思い出す。でも、それだけでは、自分自身を見つめられない。そこには、孤独を愛し自分を見つめる一人の時間を大切にするショウペンハウアーの哲学も必要だと思うのよ。
 孤独は決して寂しいものではない。そして、その孤独の中で自分がいかに社会とかかわればいいのかを見つけていく、そういう上でのワークライフバランスが大事じゃないのかな。
 なので、主人公の絵里子さんが詩織さんのアドバイスのもと一人旅に出て、旅で知り合った彼女や、その後、家に戻らず、詩織さんのお世話で、仕事や一人暮らしをあい、自分を見つめる時間、いわゆるショウペンハウアー的な境地になっていくことが、ものすごく輝かしく見えるのねえ。そうして、詩織さんが2号店やネット販売に忙しくなると、これまでの店の店長に絵里子さんを抜擢する。
 娘の萌さんも、そんな変わった母親が素敵に思えるし、その後、旦那はんと、どうなるかは、言わないけど。

 窪美澄という人は、世間を世間として捉えるのではなく、その得体の知れない曖昧な世の中で生きている一人一人をきちんと凝視して描ける人じゃないかと思うのだね。
 

窪美澄『たおやかに輪をえがいて』 posted by (C)shisyun


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