谷崎マンガ | 空想俳人日記

谷崎マンガ

 あのね、『ドナルド・キーン自伝』読んでて、キーン氏も絶賛の谷崎潤一郎作品。
「そんなに凄いのか」とな。
 ブログ記事『ドナルド・キーン自伝-増補新版』にも、こう書いたけど。
《いやあ、谷崎作品ねえ。ボクは、安部公房も大江健三郎もメチャ読んだし、三島由紀夫も川端康成も、まあそれなりに読んだけど、谷崎潤一郎は殆ど読んでいない。いや、まったく読んでないかも。読んだ方がいいかなあ。》

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 ということで、谷崎作品を読んでみることにした。
 これ、漫画だよ。副題に「変態アンソロジー」と書かれている。ぞくぞくするね。

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久世番子「谷崎ガールズ」
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 最初の「谷崎ガールズ」は、作品じゃなく、谷崎の女たらし三昧、あ、失礼、女性遍歴や佐藤春夫との確執的やりとり、知ってるぞ。なんでだ? あ、そうかあ、以前読んだ『文豪たちの悪口本』に書いてあったわ。

古屋兎丸「少年」
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 少年よ大志を抱く前に好奇心を抱け。少女よ夢を描く前に狂気心を抱け。

西村ツチカ「人間が猿になった話」
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 猿になっちゃうことが題名からネタバレしてるんだけど、それでも、どうしてそうなっちゃうのか、何故かワクワク、というか、ウズウズして読んでしまう。

近藤聡乃「夢の浮橋」
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 あとの対談で、谷崎氏が息子の視点で書いてるのに対し、母親の視点で描いてみたと述べてられるが、いや、それは正解じゃないかな。彼女にとって、近づく男は皆同じなのだ。

山田参助「飇風」
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 どうなの? そうなの? なんか、もったいない。途中、自らの身体を「美しい」とする男の自惚れ。これこそ、谷崎の本意であり、これこそ、谷崎が好きになれない面である。自分の身体が女なら美しいは許されるけど、男ならどんな体でもゲテモノだよ。かつて、三島が作家として作品を最高にすることを諦めたら自分の肉体を最高のものにしようとしたよね。気持ちは分から井でもないけど、ボクは好きじゃないなあ。

今日マチ子「痴人の愛」
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 中が空っぽ。だから、アタマじゃなく、カラダが経験し、今を生き、記憶する。これは痴人ではなく、知人故の愛なのかもしれない。つまり、脳みそが空っぽに思えると同時に、カラダが脳みその代わりをするっていうことよ。だから、彼女は、カラダで試行錯誤するのよ。女性はそうあるべきだ、そんな谷崎願望がここにあるね。

中村明日美子「続続羅洞先生」
谷崎マンガ11posted by (C)shisyun11dai
 羅洞先生は恐らく、本当はごくごく普通の男なんだと思う。ただ、今と明日のわが身がなせる業。そう、老いてくるとね、今と明日は違うのよ。ここに出てくる羅洞先生は、今は今で楽しむけど、明日は命短しなので、かつての愛して逝っちゃった人の部品とともに逝きたいのよね。

榎本俊二「青塚氏の話」
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 女優(監督の妻)自身を口説くのでなく、女優にうり二つのダッチワイフを拵えて性愛する青塚氏の並々ならぬ努力(?)の過程に、「うんうん」と共感した。これこそ谷崎自己中愛ではなかろうか。結構、ボクは、これ、気に入ってるのよ。

高野文子「陰翳礼讃」
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 日本の厠ねエ、そんなものかなあ。ううむ。厠じゃなくても、良いと思っちゃったなあ。たぶん、これ、和式便所でしょ。子どもの頃は和式便所ばかりだったけど、もういかん、今は洋式でないと、する気にならない。一言。ウンチをする場所に風流は求めない。それなら野糞のがよっぽどいいと思う。

しりあがり寿「谷崎潤一郎『瘋癲老人日記』✕ヘミングウェイ『老人と海』REMIX」
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 これは凄い。『瘋癲老人日記』も『老人と海』よく知らんので、どうリミックスされているのか分からないけど、傑作じゃないかと思う。特に、若返って海の中へ彼女と一体となって潜っていくシーンは、本を逆さにして昇天するように読んだヨ。かつて、名古屋の海越出版社から出版された『名古屋恋愛物語』に収録されている『空中楼閣』という小説を思い出したよ。この本は1991年に出版されながらも
、出版社倒産のため絶版だけどアマゾンなんかで中古本が売られてるね。
「香り高い文学と、ほのかな恋のささやき。宮城谷昌光、城島明彦ほか、7人による秀作恋愛小説集。」だとな。
 あと、国会図書館サーチでも『名古屋恋愛物語』見つけたよ。国会図書館にはあるみたいだ。そこには、内容細目として、こう書かれてる。
《カバと美女 城島明彦著. バラの季節 宮城谷昌光著. カテドラルの裏道 星井洋子著. 時の隠れ家 戸田鎮子著. サンタクルス・エクスプレス 天沼香著. 残響 天沼登美子著. 空中楼閣 横井敦志著. 秋浦 宮城谷昌光著(提供元: 国立国会図書館蔵書)》
 中古本を手に入れるか図書館で読むか、『空中楼閣』を読んでいただきたい。
 ちなみに、しりあがり寿は、以前観に行った「しりあがり寿の現代美術『回・転・展』」(図録は『回・転・界』)で、この本では唯一知ってるアーティストさんだよ。

山口晃「台所太平記」
谷崎マンガ15 posted by (C)shisyun15dai
 ボクはどちらかというと、このお女中さん物語は、谷崎でなくてもいいように思えちゃったなあ。きっと、もっとも現実に近いのかもしれないけど。そうね、どちらかというと、妄想が創るフィクションが好きなんだなあ。変態物が嫌いな人は、これ好きかもね。変態物が好きな人には、なんか物足らないよねえ。谷崎じゃなくてもいいよねえ。思うよねえ。


 以上の漫画に、【対談】山口晃×近藤聡乃、【インタビュー】古屋兎丸/中村明日美子、【裏話マンガ】榎本俊二、そして執筆者のコメントが載っている。
 あらら、ここに登場の漫画家さんは、谷崎作品を溺愛されている人ばかりじゃないんだ。でも、溺愛しすぎると漫画化しずらいかもしれないねえ。
 谷崎は、文豪にして、大変態と言われてるけど、この漫画を読んだだけでも、けっして変態などではなく、子どものように素直に、自分の人間関係をベースに描いただけだと思う。それが、嘘も隠しもなく描いた谷崎妄想が膨らんで彼の作品群が出来たのだと思う。
 ボクは妄想が甚だしいほど、素晴らしいフィクションが描けるのじゃないかと思う。今回の本でひしひしとそれが分かった。
 本来なら、原作で文字表現も堪能すべきなのだろうが、一応、この漫画で谷崎作品に満足させてもらったことにしたい。というのも、妄想をルポルタージュ的に認識に取り入れた安部公房の思考回路がボクの成長過程の多くを占めていたので、谷崎よりも安部なのだ。残念ながら、谷崎にような女性潜在依存じゃなく、安部のような「砂漠の思想」でずっと若い時から斜視で自立する生きて方できたボクなのだから。


谷崎マンガ posted by (C)shisyun


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