NHK大河ドラマ「麒麟がくる」。足利義昭の将軍への道。朝倉義景の事情。織田信長・浅井長政 vs 三好三人衆・六角義賢。稲葉良通の一徹人生。戦国時代の生存の厳しさ。ライバルは関白。

 

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麒麟(40)戦国の蟻たち


前回コラム「麒麟(39)器はどこ…」では、足利将軍後継者選び、松永久秀の陰謀、終わらない二大勢力の抗争、近衛前久と公家の生き方などについて書きました。

今回のコラムは、大河ドラマ「麒麟がくる」の第25回「羽運ぶ蟻(あり)」に関連し、将軍後継者選びに関わった畿内周辺の戦国武将たちと、足利義昭の行動、朝倉義景や稲葉良通(いなば よしみち)などについて書きたいと思います。


◇蟻のように、少しずつ…

大河ドラマ「麒麟がくる」の第25回「羽運ぶ蟻(あり)」では、1566年に、足利義昭が越前国(福井県)の敦賀(つるが)で過ごしている場面から始まりました。

前回コラム「器はどこ…」で、1568年あたりまでを先行して少し書きましたが、1565年に京で、13代将軍の足利義輝が「永禄の変」で討たれ、その二ヵ月後には、足利義昭(あしかが よしあき)は、細川藤孝・三淵藤英・一色藤長・和田惟政(わだ これまさ)ら多くの比較的有力ではなかったが、足利義輝に近かった武将の助力で、奈良の東大寺を脱出し、近江国の甲賀の和田惟政の領地に逃れました。
下記マップの「矢島御所(やじまごしょ)」の少し東側の地です。

* * *

前回コラムで、足利義昭をあえて生かして逃亡させたのも、松永久秀の陰謀の可能性が高いと書きました。
松永久秀が、その気になれば、奈良で、この足利義昭ら一派をせん滅できたと思います。
実は、この久秀の陰謀には、越前国の朝倉義景も一枚かんでいたともいわれています。

足利義昭が逃亡した近江国の和田氏は、近江国の有力武将の六角氏と深いつながりがあります。
六角氏は、義昭の兄で13代将軍の足利義輝や、父の12代将軍の義晴とは深いつながりがあり、ずっと支援していましたね。
六角義賢(ろっかく よしかた)の代になってからは、より世の中の情勢を見ながら行動するようになりました。

この後、足利義昭は、下記マップの「矢島御所」に移動します。
大河ドラマ「麒麟がくる」の第25回「羽運ぶ蟻」の内容は、 足利義昭が、六角義賢に庇護される中で、僧から武士に還俗(げんぞく)し、覚慶(かくけい)から足利義昭という名になるというところから始まりました。



◇畿内周辺の蟻たち

上記アップは、その頃の畿内および周辺地域で、影響力のある武将などの人物名と配置、重要な場所を記しました。

有力者名が並んでいますが、中でも、上杉謙信と武田信玄は、別格に強大な勢力で、この地図内に領地はありません。
両者は、東国にいる強大な戦国武将です。

義昭は、「矢島御所」の時点で、敵対する畿内の三好勢に対抗するため、上杉謙信や畠山高政に相談しています。
六角義賢はもちろん、織田信長、浅井長政、斎藤龍興を、義昭のもとに結集させ、三好勢に対抗させようとしたともいわれています。
朝倉義景も松永久秀も、その企ての中にいるということです。

松永久秀は、一応、三好長慶(みよし ながよし)が存命中は、三好氏の家臣ではありましたが、長慶の死去により、久秀の狙いは、主君の三好一族の乗っ取りと、14代将軍になるであろう足利義栄(よしひで)の排除だったとも思われます。
松永久秀が、三好一族を滅亡あるいは支配下に置いてしまえば、松永久秀は一躍、有力武家の家臣ではなく、大勢力の有力戦国武将となれますね。

* * *

「永禄の変」では、13代将軍の足利義輝と、彼の生母の慶寿院(けいじゅいん / 義昭の生母)が討たれましたが、この時に、慶寿院の兄は、前述の武将らの一部といろいろな相談をしたともいわれています。
三好氏とは宿敵にあった畠山氏や、上杉謙信にも、三好勢打倒計画の話しをしていたようです。

ですから、義昭の一派は、13代将軍義輝の死後の直後から、すぐに三好勢打倒に動き出していたようです。

つまり、三好氏と14代将軍になりそうな足利義栄(よしひで)に対抗し、義昭のもと日本各地の武将が手を組んで、三好一族と義栄を倒そうということです。

松永久秀は、この流れの中で、主君の三好氏にとってかわろうということだと思います。
とはいえ、久秀の道のりは楽ではありませんね。


◇義昭は敦賀へ

各地の武将を結集させるという、義昭ら一派による、三好勢に対抗する計画でしたが、この戦国武将たちは、もともと敵対している者どうしです。
そうそう結集し、連携できるような状況でも、内容でもありません。

そのスキに、いつ自国を敵に侵攻されるかわかりません。
上杉謙信や武田信玄、北条氏康も含めて、自国のことで精一杯で、それどころではありません。
こんな状況で、畿内の一大勢力の三好勢と戦うことなど、そうそう行えませんね。
義昭の計画に、うかつに応えることなど、まず不可能です。

* * *

足利義昭も、こうした状況で、京のすぐ近くの近江国にいることができなくなり、越前国の朝倉義景を頼って、越前国に行こうと出発しますが、義景の本拠地の一乗谷(いちじょうだに)に入れてもらえず、その手前の敦賀(つるが)で、何か月も待たされているというのが、今回の大河ドラマの状況でした。

この段階では、まだ新将軍は決まっていません。


◇朝倉義景の事情

確かに、朝倉義景が動けば、浅井氏や六角氏も連携しやすいし、中国地方の武将らも味方する可能性が十分にある気はします。
そうすれば、畠山高政は南側から加勢する可能性もあります。
京への欲望を、内心一番強く持っていたのは、朝倉義景だったかもしれません。

ただ、朝倉氏自身も、主君の斯波氏を下克上で打ち破って成り上がった武家です。
織田氏は、同じ斯波氏のもとでの家臣どうしで、最強のライバルでしたね。
下克上の恐ろしさや、戦国武将どうしの連携や裏切りを知り尽くした朝倉義景が、慎重にならないはずはないとも感じます。

特に、留守を、背後から織田信長に突かれたら、相当に危険な状況になります。
朝倉氏から見たら、浅井氏と織田氏の関係もかなり怪しい雰囲気です。
もともと、六角氏も、昔から野心いっぱいの武家です。

越前国(福井県)という場所は、足利将軍には逃亡先としては、守りはかたいですが、攻撃に出る場合に、不利な位置にもなりかねません。
朝倉義景が、なかなか軍事行動に動き出さないのも、当然のように感じます。
それに、越前国には、もはや大軍勢にまで成長した、本願寺の一向一揆の勢力もいます。

朝倉義景は、上杉謙信か、武田信玄と組まなければ、まず安心して上洛作戦は実行できない気も、個人的にはします。

ドラマの中の光秀は、そんな義景(演:ユースケ サンタマリアさん)にウズウズ…、上洛に反対する義景の家臣の山崎吉家(演:榎木孝明さん)にイライラ…。


◇誰がチャンスをつかむのか

足利義昭ら一派も、そうした朝倉氏の事情はわかっていたと思います。
義昭は、肝心の、上杉謙信、武田信玄、北条氏康による東国での三つ巴の戦いを、なんとか仲裁し、止めたいと思っていたのでしょうが、この東国の三大勢力をコントロールすることなど、誰もが不可能です。

こんな状況の中、織田信長は、確実に成長し、支配域を拡大させていましたね。
この期間こそ、信長にもたらされた、強大化への最大の好機だったとも感じます。

上記マップの人物名たちは、それぞれが皆、すさまじい敵対関係だったということです。
ただ、いつまでも敵対していたり、けん制しあっているだけでは、みな身動きがとれません。

だれが、一番先に、上洛のチャンスをつかむのでしょうか…?



◇羽と神輿(みこし)

奈良から、近江国(滋賀県)を経て、越前国(福井県)へ…、足利義昭の移動は、まさに蟻(あり)のようにゆっくりで、いかにも弱々しく見えてきます。
周囲にチカラのある戦国武将はたくさんいるのに、逆にライバル関係の強い者たちがたくさんいすぎて、彼らを結集させることなど、ほぼ不可能です。
足利義昭自身が、絶大な武力でも持っていれば違ったのでしょうが、そんなものは皆無で、まるで哀しき一匹の蟻でした。

* * *

足利将軍家にとって「義」の文字は、特別なものですね。
まさに、「虫」編(へん)に、「義」と書いて、「蟻(あり)」です。

大きな羽を運ぶには、多くの蟻(武将)のチカラが必要…、大河ドラマの中で、義昭は、そのような主旨のことを語っていましたね。

ドラマの中では、義昭(演:滝藤賢一さん)が、自分は蟻だと言っていました。
蝶(ちょう)の「羽」とは、何を意味しているのでしょうか…。
ドラマの中の義昭は、羽は「将軍」のことだと言っていました。
蟻は蝶にはなれません…。

* * *

蝶の家紋の武家を思い浮かべると、平家の末裔たち、藤原氏の末裔のごく一部、そして源氏の末裔のごく一部です。
上杉謙信、織田信長は、蝶の家紋も持っていましたね。
ドラマの中の義昭は、自身を羽にはたとえませんでしたね…。

ドラマの中の光秀は、そんな思想の義昭に、その見方を変えていきました。
光秀のような見方が、当時の他の戦国武将たちにあったのかどうか…。

ドラマの中の、朝倉義景も、織田信長も、義昭を「神輿(みこし)」だと言っていました。
神輿は、無能で、軽いほどいい…。
神輿も、羽も、不要になったら捨てるまで…。

個人的には、少なくとも今回のドラマに登場、あるいは関連した、朝倉義景、織田信長、松永久秀、三好三人衆、稲葉良通(いなば よしみち)には、ドラマの中の光秀と同じ見方はないように感じますね。

* * *

義昭は、ここから、どのルートを通って、最終目的地の京に向かうのでしょうか…。
チカラを貸すのは、どの武将でしょうか…。

光秀は、どのような「はたらき」をするのでしょう…。
光秀も、「義」を持つ、土岐源氏の末裔です。
重い羽を、いっしょに運んであげるのでしょうか…。


◇怒涛の1568年、義昭の将軍就任

前回までのコラムで、松永久秀の陰謀のことを書きましたが、この翌年の1567年に、松永久秀は、三好勢の中から、三好氏当主の三好義継(みよし よしつぐ)を自分の側に寝返らせ、三好一族を分断します。
これで敵は「三好三人衆」や、それに従う者たちです。
奈良の「東大寺大仏殿の戦い」で、松永久秀・三好義継の連合軍は、三好三人衆や、奈良の武将の筒井順慶と戦い、敗走させます。

三好氏が推した足利義栄(よしひで)が14代将軍になるのは、1568年の3月です。
大河ドラマ「麒麟がくる」の第25回「羽運ぶ蟻」の内容は、ここまででしたね。

* * *

1568年9月に、14代将軍の義栄は不審な死をとげます。
わずか7ヵ月間の将軍でした。

個人的には、松永久秀の陰謀のような気がします。
同じ月、足利義昭は、織田信長や浅井長政らとともに、上洛し、10月には、15代将軍となります。

まさに、あっという間の、怒涛のような歴史の流れです。


◇怒涛の1568年の背景

先ほど、各地の戦国武将を連携させ、三好勢に対抗できる武力勢力を作ることは、そう簡単にできないと書きました。
おそらく、これを打開させる内容のことが、次回の第26回の大河ドラマで描かれるのだと思います。

これに関連した周辺の事柄を、少しだけ先に書きます。

* * *

近江国の武将の六角義賢(ろっかく よしかた)は、1568年、今回も怪しい動きを見せます。

かつて足利義晴や義輝の味方をしていた六角氏ですが、状況により、三好側に回ったりと、変幻自在に動くようになります。
将軍の権威が地に堕ち、群雄割拠の下克上の戦国時代です。
当然の行動変化でしょう。

もともとゲリラ戦が得意で、陰謀や暗躍も得意、鉄砲技術も保有する六角氏は、1560年の「桶狭間の戦い」で信長に兵力を送り、助けてあげましたね。
今回の将軍後継者選びの際も、当初、六角義賢は、足利義昭や織田信長の側にいましたが、裏切って三好勢側に回りました。

* * *

実は、同じ年の1568年、美濃国の武将の市橋長利(いちはし ながとし / もともと斎藤龍興の家臣で、後に信長の配下になる)のはたらきで、織田信長の妹の「お市(いち)」が、近江国の武将の浅井長政(あざい ながまさ)に嫁いでいます。
後に、織田氏と浅井氏の同盟関係をつくる仕事をする人物が市橋です。
ですから、すでにこの時に、両氏は連携をとっているということだと思います。

この浅井長政への「お市の嫁入り」の前に、実は、浅井家の主家である六角氏の家臣・平井氏の娘と、浅井長政の婚約が破談となっています。
六角氏から見れば、信長は、自分たち(六角氏)を捨て、浅井氏と組んだと考えるでしょう。
さらに、浅井氏は、自分たち(六角氏)を裏切ったとも考えるでしょう。

このような背景があり、織田氏と浅井氏が連携、六角氏は三好氏と連携しました。
ようするに、畿内周辺では、大きく二つの勢力図ができることになります。

朝倉義景と松永久秀は、様子を見ながら、自身に最適な道を探るはずです。

松永久秀にとっては、三好三人衆らとの戦闘が目の前にありますから、圧倒的な武力を持ち、あの今川義元を倒した信長と組まないことには、自身の思惑どおりにはいきませんね。

後は、朝倉義景と、足利義昭がどう考えるかですね。
朝倉義景は、宿敵でライバルの織田信長との連携だけは到底受け入れないかもしれません。

* * *

六角氏は、もともと三好長慶(みよし ながよし)の宿敵でしたが、絶大なチカラを持っていた長慶は、もはやいません。
六角氏と三好三人衆が連携するのに支障はありません。

六角氏は、朝倉氏とは敵対関係です。
浅井氏は、朝倉氏に、お家の存亡を救ってくれた大きな恩があります。
織田氏と朝倉氏は、両者ともかつて斯波氏の家臣で、最大のライバルどうしで、今も敵対関係です。

* * *

こんな状況下で、さあ足利義昭は、どのような道を探るのでしょうか…?
どの武将を選べば、将軍の座につけるでしょうか…?
もはや、将軍という羽を、武将たち皆で支えてくれ…は、実現できません。

* * *

義昭の上洛と将軍就任の前に、両陣営(織田信長・浅井長政 vs 三好三人衆・六角義賢)で戦闘が始まります。
その戦闘で信長側が勝利し、14代将軍の義栄が死去し、義昭は念願の将軍となりますが、次回以降の大河ドラマで、それらの戦闘のことも描かれるのかどうか…。

ようするに、この短い期間に、織田信長、明智光秀、足利義昭、松永久秀、浅井長政が、つながることになります。
ついでに、関白の二条晴良(にじょう はれよし)も…。

ドラマの中では、秀吉(演:佐々木蔵之介さん)もすでにウロチョロ…。
堺の豪商の今井宗久(いまい そうきゅう / 演:陣内孝則さん)も登場しています。
今回の宗久…、少し怪しい雰囲気を漂わせていますね。
松永久秀(演:吉田鋼太郎さん)、朝倉義景(演:ユースケ サンタマリアさん)に続いて、また怪しい雰囲気のオヤジが登場です。
個人的には、イケメンのオヤジ俳優さんもいいですが、個性的な怪しいオヤジ俳優さんも好きです。

さて、もうひとり、怪しいオヤジ俳優さんのことを…。


◇スピード展開と再登場

さて先ほど、足利義昭が、矢島御所から、各地の戦国武将に、三好勢打倒計画の話しを持ちかけたことを書きました。
その中で、その後の動きを書いていない武将がいましたね。
美濃国の斎藤龍興(さいとう たつおき)です。
斎藤道三の孫で、斎藤義龍の子です。

大河ドラマ「麒麟がくる」の第25回「羽運ぶ蟻」では、なんと、斎藤龍興はすでに、織田信長によって美濃国を追い出されていましたね。
いわゆる、織田信長の「美濃攻め」の戦闘が、ドラマでは完全スルーとなりました。
なんとなく予想はしていましたが、少し残念です。
せめて数分の戦闘シーンくらいは…。

* * *

「美濃攻め」が終わって、大河ドラマの中で、稲葉良通(いなば よしみち / 演:村田雄浩さん)が、いきなりの、まさかの再登場でした。
個人的には、もう登場はないと思っていましたので、また、あの怪しい演技の表情が見れて、うれしかったですね。
前述した、もうひとりの怪しいオヤジ俳優さんとは、この方のことです。

大河ドラマ「麒麟がくる」の第25回「羽運ぶ蟻」では、斎藤龍興の失脚後の稲葉山城(岐阜城)で、光秀と稲葉良通(一鉄)の思わぬ再会となりました。
織田家臣団の中で、光秀とは、近いうちに、また同じ主君(信長)の家臣どうしの関係性になりますね。

ドラマの中の良通の台詞にも「たまげたか、わしがここにいて…」とありましたが、テレビを見ている視聴者のほうが、良通の思わぬ再登場にびっくりです。
今回の大河ドラマは、こうした視聴者向け半分のような台詞も多くて、面白いですね。

個人的に、村田さんのこの怪しい演技と表情は大好きで、何か戦国武将のイメージそのもので、いちいち腑(ふ)に落ちます。

* * *

いずれにしても、良通や信長、伝吾(光秀の家臣)の台詞で、信長の「美濃攻め」をすべて語ってしまうとは、見事な簡易仕様のドラマ展開ですね。
今回の大河ドラマの脚本は、見事に台詞の中で、スピード展開させていきますね。

他にも、今回の内容では、光秀の母の牧(演・石川さゆりさん)のひと言で、光秀と牧が美濃国に戻ってきます。
なんとも、幸せ感いっぱいのシーンでしたね。
何事も、「戻る」とはいいことです。
牧さんは、「もう思い残すことはない」と語りました。
えっ、ここで牧は退場…?

そこで、美濃国にやって来た光秀は、稲葉山城(岐阜城)にいる信長と再会です。
帰蝶がいなくて残念だと光秀が語っていました。私も同感。
一説には、本物の帰蝶は、このあたりで亡くなったというものもありますが、大河ドラマでは、まだまだ登場するはずです。

光秀だけは、越前国に戻っていきます。
ドラマの中の信長は、光秀を手に入れたい気持ちでいっぱいでしたね。
信長と光秀の会話の台詞は、ドラマの中の二人の人物像や関係性がうかがえる部分も多く、見事な内容だと感じました。

実際の二人の人物像を考えると賛否両論あるとは思いますが、ドラマの中の二人の人物像が明確に示されましたね。
個人的には、光秀(演:長谷川博己さん)と信長(演:染谷将太さん)のふたりの俳優さんの表情が、これまでと違って見えました。


◇稲葉良通の一徹人生

先ほど、稲葉良通(いなば よしみち)のことを書きました。
この稲葉良通は、「がんこ一徹」という言葉の由来となる、後の「一鉄(いってつ)」、その人です。

個人的に、彼の名を聞くと、昭和時代に、読売巨人軍にプロ野球界の天下統一をもたらした(?)名作漫画「巨人の星」に登場した、星 飛雄馬(ほし ひゅうま)の父の「星 一徹(ほし いってつ)」をいつも思い出します。
息子(飛雄馬)への、ものすごい野球英才教育と、思い込んだら試練、試練、また試練…。
今現代でいえば、シゴキ、イジメ、ハラスメントのたぐいですね。
この「星 一徹」と、「一鉄」が、昭和世代には、すぐに結びついてしまいます。

* * *

さて、この稲葉良通(一鉄)は、実は足利義昭の生涯にも似ています。
美濃国にいた、良通は、当主の六男だったため、すぐに寺に送られ、僧の修行に入ります。
義昭と同じですね。
そして、稲葉家は、浅井氏との戦闘で全滅しますが、良通だけが寺にいたため生き残ります。
同族の稲葉家に還俗して戻り、そこから大復活していきます。

* * *

彼は、美濃国の土岐頼芸(とき よりよし)、斎藤道三に仕え、大出世し、「西美濃三人衆」のひとりとなります。
三人衆とはいっても、彼の独壇場です。
そして、主君の斎藤家の実権を握るため、斎藤道三を裏切り、親子を戦わせ、道三も義龍も(?)なきものにし、斎藤龍興を裏切って信長と組み、龍興を失脚させ、織田信長の配下に入り、そこでも出世していきます。

ある意味、彼も、壮絶な戦国時代を生き残り、下克上を地でいく人物です。
道三、信長、光秀とは、また違った、戦国時代の武将の生き方を強く示してくれている人物だと感じます。
まさに、鉄のように強い「一徹さ」が、彼の生涯を貫いていたようにも感じます。

* * *

彼は、「本能寺の変」の後も、明智光秀には味方しません。
信長が死んだ後、混乱した美濃国を奪おうと画策します。
まだまだ、下克上の戦国武将ここにありです。

彼は、道三、信長、秀吉と…、選択を誤りませんでしたね。
一鉄の死後も、一族は、「関ヶ原の戦い」で西軍から、家康の東軍に寝返ります。
自分の身内が全滅し、自分だけになってから、見事に復活していく彼の生涯は、戦国時代の武士の姿をよくあらわしていますね。

* * *

そんな一鉄でしたが、明智光秀が秀吉に敗れ、光秀の重臣であった斎藤利三(さいとう としみつ)の娘をひきとって育てるのです。
その娘が、徳川三代将軍の家光の乳母となり、江戸幕府の大奥の基礎をつくり、絶大な権力を握る「春日局(かすがのつぼね)」となります。

おそらく一鉄は、前述の星一徹にも負けないような、相当な英才教育を、彼女に行ったのではと感じます。
そうでなければ、あそこまで強く賢い女性はできあがらない気がしますね。

* * *

稲葉良通が、今後も大河ドラマに登場するのかどうかわかりませんが、これからの信長の有名な戦いにも、彼はたくさんの武功を上げていきます。
出世争いという意味では、光秀のほうに分がありましたが、壮絶な人生という意味では、光秀にも劣らないものがありましたね。

ちなみに、ドラマに登場した、朝倉義景の幼い息子は、飼っていたネズミが逃げたと泣いていました。
不吉な予兆を感じますが、戦国時代の武家の幼子の多くは、何かの陰謀や暗躍の中で姿を消していきます。
生き残ったら残ったで、相当に大変な運命を背負わされます。

「一徹人生」なんて、そうそう簡単にできることではありませんね。
でも、そんな「一徹」たちは、今も昔も、どこかにいるものです。

* * *

この稲葉良通が大きく関与した、織田信長の「美濃攻め」に関しては、次回以降のコラムで少し書きたいと思います。


◇ライバルは関白

ここで、関白の近衛前久(このえ さきひさ)のことを少しだけ書きます。

前回コラムで、野心家の公家で、義栄を14代将軍に推挙した関白の近衛前久のことを書きましたが、義昭を新将軍につかせるためには、前久を失脚させ、別の者を関白にする必要が出てきますね。

近衛前久の最大のライバルが、信長のチカラにより、ここで登場してくるはずです。
そのお話しは、おいおい…。


◇蟻たちは強い

これまでの大河ドラマでは、義昭の将軍就任直前の武将どうしの戦闘については、あまり詳しく描かれたことがないように思います。

今回の「麒麟がくる」では、どのあたりまでを描くのかわかりませんが、前述の関白のライバル関係は描かれそうですね。
まさか、稲葉良通の再登場も…?

* * *

それに、今回の大河ドラマには、歴史ドラマには、まず登場しない、朝倉義景の重臣の山崎吉家(演:榎木孝明さん)も登場しています。
ということは、彼の壮絶な最期も描かれるのかもしれません。
俳優の榎木孝明さんは、本物の剣術使いですから、立ち回りも、いつも見事ですね。
楽しみにしています。

いずれ ほぼ全滅する山崎吉家の一族の者で、生き残った者が、明智光秀に拾われ生き残っていき、光秀の死後は、柴田勝家のもとで生きていきます。
越前国の武士は、いつも悲運…。
山崎氏は、越前国から日本各地を経て、徳川の時代を乗り越え、見事に明治維新も残っていきます。

有力で大きな武家ではない、小さな蟻でも、すべてが踏みつぶされることなく、見事に生き残り、出世し、家を継続させていく…、戦国時代の生存の厳しさと、武家のたくましさを痛感するばかりです。

* * *

今の地球には、人間の数よりも、はるかに数の多い生きものの種類が、たくさんいることを忘れてはいけませんね。
蟻という生きものも、そのひとつです。
彼らからしたら、人間の数など、問題にもなりません。

そもそも、人間が、「蟻ごとき…、蟻みたいに…」と語るのも、何か違うのかもしれませんね。
蟻は身体は小さいが、決して侮ってはいけないとも感じます。
同胞が消えようが、何が何でも、同じ蟻の種族は残します。
戦国時代の武家も同じでしたね。

羽が偉いのではなく、蟻がすごいのですね。

* * *

 

コラム「麒麟(41)湖を越えて…」につづく。

 

2020.9.21 天乃みそ汁

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