人間万事塞翁が馬(随筆)【20】ちょっとだけ贅沢を | 遊行聖の寺社巡り三昧                            Yugyohijiri no Jishameguri Zanmai

先週は、坂東三十三観音霊場五番札所の小田原にある飯泉山勝福寺さんを参詣しました。

生憎の冷雨でしたが、既に渋滞する鎌倉にある一番から四番札所の参詣は終わっており、ここからは車を使っての移動となるため天候はさほど気になりません。

同時進行で進めている関東三十六不動霊場の二番札所、南足柄市大雄町最乗寺さんと一緒に参詣するつもりでしたが、さすがに冷雨の山登りは辛いのでこちらは延期しました。

勝福寺さんは坂東五番札所に相応しい立派な寺院で、ご本尊は十一面観音(飯泉観音)なのですが残念ながら厨子の扉が閉まっていて拝観は叶いませんでした。

『仏像巡礼辞典』(山川出版社)に写真があったので借用させて頂きますと、平安時代後期の様式を踏襲した素朴なお姿のご尊格であるようです。

ところがその閉まった厨子の前に、御簾の隙間から少しだけ覗く観音がおられたのです。

美月は本尊十一面観音のお前立だと言いますが、どう見ても頭頂に化仏がおられないので私は聖観音ではないかと考えています。

その美しさに息を吞みました。

歴史があるとか慶派が造ったとか、素人の私には何も意味がないことです。

前傾姿勢で右手を差し伸べるそのお姿に、只々滂沱するほどの有難さを感じました。

(この記事を書いている現在、いつもの通り泣いています)

ご本尊のことは書籍やウェブサイトに有り余るほど紹介されているのですが、この聖観音については情報を見つけることが出来ませんでした。

しかし路傍の名も無い石仏も同じですが、自己の感性こそが最も大切であり、私にとってこのご尊格を奉拝出来たことは贅沢な至福の時間となりました。

私がこれほど感動しているにも拘わらず、不埒な美月は今回の小田原巡礼で、美味しい蒲鉾を購入することを密かに狙っていたようです。

実は以前、日蓮寺の巡礼で小田原を何度か訪れた際、蒲鉾店の本店が並ぶ『かまぼこ通り』なるスポットを偶然見つけたことがありました。

食い意地が張った餓鬼美月はそれをしっかり覚えていて、どうしても寄りたいと言い出したのです。

もう一寺巡る時間があったのですが、仕方なく『かまぼこ通り』へ行ってみると、風情ある『籠清本店』の前から子供のように動こうとしません。

店内に入ると、それは見事な設えと接客に私も感動してしまいました。

素晴らしい聖観音を奉拝して心優しくなっていた私は、つい気が大きくなって一本3,000円する蒲鉾を紅白セットで買ってしまいました。

餓鬼美月は大喜びで、その晩は日本酒『酔鯨』720ml一本を軽々空けて爆睡しました。

思うに、余命短き老人であるならば、本物の味を知るためのちょっとした贅沢は、神仏も目を瞑ってくれるのではないでしょうか。