さて青面金剛が手にぶら下げているこの女人は何者かという疑問です。
実はこの女人をショケラ(商羯羅天or商羯羅天妃)と呼ぶのですが、これは「窪徳忠著:庚申信仰の研究(S36)」による民俗学的な解釈で、仏法の準拠資料はありません。
またショウケラという庚申に関係する妖怪は、前段で書いた三尸の中尸をモデルとしたもので、形態からしても女人とは全く異なり、後から意味づけられたものでしょう。
よって青面金剛が懲らしめる『女人=三尸説』には十分な説得力はありません。
では青面金剛に髪を掴まれる女人は誰なのか?
参考になるのは、先日、『神奈川県立金沢文庫』で購入した図録『ほとけのずかん』に掲載されている『諸尊図像集』(鎌倉時代)にある「摩訶迦羅天(マハーカーラ)」です。
人形の髪を右手に掴んで左手に羊を掴んでいます。
そして背中には象が干物になったような革の袋を担ぎ、青色三面の顔をしていると注記されています。
更に『日本仏像辞典』(真鍋俊照)にも象皮を背負って、右手に人型、左手に羊(実は白牛)を掴んだ図像が明示されている尊格が載せられています。
これが大黒天の本来のお姿です。
今でこそ優しそうなオジサンの大黒天ですが、伝えられた初期の頃は、マハー(偉大なる)、カーラ(闇黒)を意味するヒンドゥー教のシヴァ神を模した破壊神だったのです。
大黒天が背負っている大きな袋は元々象の革だった・・どうぞ明日から周囲の人達に蘊蓄としてお語り頂ければと思います。
ところがインドではヒンドゥー教の台頭とともに仏教は劣勢に立たされ、ヒンドゥー教の最高神シヴァ、ヴィシュヌ、プラフマーを合体させた神を創造しました。
それが摩訶迦羅天(マハーカーラ)、中国を経由して日本に入って来た大黒天なのです。
そうなると似せて創ったものの、摩訶迦羅天は自分自身でもあるシヴァ神より強大な力を持つことを実証しなければなりません。
これが前章でご紹介した横浜市にお住いの大畠洋一さんの説です。
諸説あればお教え下さい。
つまり青面金剛は、故を辿れば大黒天であり、顔が青いとされる摩訶迦羅天なので、シヴァ神を右手で掴んで降伏させている姿となっているわけです。
しかし・・髪を掴まれているのは女人の姿です。
これに関して大畠洋一さんはこう記述しています。
「征伐されている男性はすでに戦意を喪失しているのに対し、髪をつかまれた女性はなお剣を振り回して最後の抵抗を試みている」
つまりぶら下げられているのはシヴァ神(大自在天)ではなく、后の烏摩妃(ウマー)であると推定されます。
・・これは大変なことになってきました。
ウマーが抱いている子供はガネーシャ神(歓喜天・聖天・象)ですし、大好きな五大明王である降三世明王(大自在天と烏摩妃を踏みつける造形)にも近づいて来ました。
この続きはまたご紹介します。