ペロシ米下院議長の訪台は意味があったのか? | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 8月2日、アメリカ下院のペロシ議長一行が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談して、「台湾と世界の民主主義を守っていくアメリカの決意は揺るがない」と述べた。これに対して、中国は猛反発し、台湾周辺で軍事演習を行ったり、台湾産の食品などの輸入を禁止したりするなど、対抗策を講じ、一気に緊張が高まった。

 また、8月14日にはアメリカの超党派の議員5人が台北に到着、蔡英文総統と会談した。ペロシ米下院議長訪台に続くもので、また、中国は15日に軍事演習を行った。

 冷静に考えれば、これらの訪台は何のためで、どんな成果をもたらしたのか、よくわからない。おそらくアメリカにとっても、台湾にとっても、そして日本にとっても意味のない訪台であった。

 むしろ喜んでいるのは中国の習近平主席であり、アメリカの脅威を宣伝する材料を獲得し、アメリカとの覇権競争に邁進している自分の正しさを中国国民に再認識させることができるからである。秋の党大会で、3期目も続投することを確実にするための援護射撃をもらったようなものである。

 中国が軍拡に精を出してきたとはいえ、まだアメリカを凌ぐ軍事力を保有するまでには至っていない。平穏な環境で党大会を迎えたい習近平が、アメリカと軍事衝突を起こすような冒険をするはずはない。

 1995年6月に、台湾の李登輝総統が訪米したことに中国は反発し、台湾周辺でミサイル発射や軍事演習を繰り返し行った。しかし、1996年3月、クリントン大統領は、空母ニミッツ、インディペンデンスを中心とする2つの空母打撃軍を台湾周辺に派遣し、中国を封じ込めた(第三次台湾海峡危機)。

 このときの屈辱から、中国は軍拡に励み、今や「遼寧」、「山東」という2隻の航空母艦を保有するまでになっている。海軍のみならず、空軍、陸軍も近代化されている。

 今回は、過去25年間に中国が他国から侮られないような軍事力を保持したことを、演習で示し、台湾武力統一の予行演習を行った。

 アメリカは「一つの中国」という政策を堅持しており、台湾を独立国として認めていないし、台湾問題は内政問題であるという点でも中国と一致している。ただ、武力による統一には反対するということである。

 さらに、それに加えて「民主主義や人権を守る」という主張が背景にある。しかし、たとえばアフガニスタンを見れば分かるように、20年間も介入しながら民主主義を定着させることができず、結局はタリバンの恐怖政治に逆戻りさせてしまった。

 バイデン大統領は、7月中旬にサウジアラビアを訪問し、ムハンマド皇太子と会談したが、原油増産を依頼することが最大の目的であった。

 しかし、ムハンマド皇太子はジャマル・カショギ記者の殺害を指示したとされており、それをバイデンも批判していたはずであり、バイデン自身が、民主主義や人権よりも石油を選んだのである。

 ペロシ訪台も、中国国民のナショナリズムを刺激しただけである。中国人は、増強された軍事力の展開によってペロシが象徴する「愚かなアメリカ」を牽制することに快哉を叫ぶのである。

 民主主義や人権を守ろうとする信念は素晴らしい。しかし、それを具体的に政治行動として実のあるものにするのは容易ではないのである。ビジネスやナショナリズムとの競合を常に念頭に置かねばならないからである。