「集団免疫(herd immunity)」論をどう考えるか。 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 パンデミックとなった新型コロナウイルスの感染拡大は、世界で感染者が約40万人に達するという状況である。とくにアメリカとヨーロッパが酷い状況になっている。

 イタリア、ドイツ、フランス、スペインに比べ、比較的緩やかな対策を展開してきたイギリスでも、急激な感染拡大を前にして、強硬策に転じた。ジョンソン首相が全国民に対して3月23日に全土での自宅待機を命じている。

 なぜ、イギリスがこれまで厳しい対策を講じなかったのか。それは「集団免疫」論に依拠していたからである。

 「集団免疫」とは英語で”herd immunity”と言うが、herdとは動物の群れのことを意味する。つまり、たとえば日本列島の住民が6〜7割も感染すれば、もう多くの人が免疫を持つことになり、彼らが、残りの3〜4割を守るので、心配はなくなるということである。

 北里柴三郎の師で、結核菌やコレラ菌を発見したロベルト・コッホの名前を冠したドイツの研究所は、多くの人が免疫を獲得する状態、つまり「集団免疫」の獲得には、今回の新型コロナウイルスの場合は、2年が必要との見解を発表した。

 すぐにはこの「武器」は使えないということである。そこで、同研究所は、当初の判断を修正して今回のウイルスの危険度を「高い」に引き上げたのである。 

 集団免疫論が間違っているわけではないが、致死率が高い場合、またワクチンや治療薬が未開発の場合には、この考え方のみで対策を進めるわけにはいかない。国民が不安に駆られるからである。

 ドイツのメルケル首相やイギリスのジョンション首相は、当初は集団免疫の考え方に立って政策を進め、たとえば学校の一斉休校の措置はとらなかった。それは、子どもが感染しても重症化することはないという疫学的、科学的な見地に基づいた判断であり、間違ってはいない。

 しかし、イタリアで感染が爆発的に広がり、それが、フランス、ドイツ、スペインと近隣諸国に蔓延していくに及んで、人々はパニック状態に陥った。大衆心理的観点から、政治的に休校措置などの強硬策をとらざるをえなくなったのである。しかも、学校の教職員は大人であり、ここまで感染が広がると、そこからの感染も危惧されるということもある。

 こうして、ヨーロッパ大陸の諸国は、イタリアやフランスのように、外出禁止令を敷き、国全体を封鎖する厳しい措置をとっている。フランスでは、10万人の警察官を動員して3月17日から15日間の外出禁止措置を導入したが、この措置の効果で、今後8〜12日以内に感染が終息に向かうと期待されている。

 イタリアで急速に患者が広まったのは、中国人観光客や渡航歴があるなど中国との関連の深い者のみに注意し、国内での人・人感染に気づくのが遅れてしまったからである。しかも、イタリア北部では、イタリア人の患者が急増し、トリアージュすることなく、軽症者も重症者も入院させたために医療崩壊が起こってしまった。

 今はまだ、集団免疫論の出番ではない。