感染症の危機管理:新型インフルエンザ対応の教訓(2)感染症発生宣言 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 様々な準備作業は、強毒性のインフルエンザ発生を前提にしたものであり、まさに「戦争」準備の様相を呈していた。さらに、ウイルスが国境を越えて移動するため、WHOをはじめとする国際機関や諸外国との連携が不可欠であった。

 11月2日には、北京で日本、中国、韓国の保険大臣会合が開かれ、新型インフルエンザ対策について三国の協力を約束した。また、この会合では、それまで三国の担当者が行ってきた危機管理訓練の成果が報告された。

 中国の陳竺大臣は、パリのパスツール研究所に留学していたことがあり、私もパリ大学留学組なので、私的な会話は通訳をいれずにフランス語で済ませることができた。また、韓国の全在姫大臣はミネソタ州立大学で勉強していたので英語で十分に意思疎通ができた。

 2009年を迎え、1月13日には、関係省庁と愛知県が参加して総合訓練を実施した。4月20には、11回目になる専門家会議において、プレパンデミックワクチンに関する臨床研究の結果が報告された。このように、大臣就任以来、強毒性の新型インフルエンザを念頭において、着々と準備を進めてきた。

 しかし、準備は整えつつあったとはいえ、このような厄介なウイルスと実戦を交えることができれば、それに越したことはない。そうでなくても、課題山積の厚生労働省である。

 しかし、この期待は、ジュネーブからの一報で萎んでしまった。4月24日、WHOは、メキシコとアメリカで、豚インフルエンザの人間への感染と考えられる事例が発生し、メキシコで60人が死亡したことを明らかしたのである。

 この知らせに、来るべきものが来たという覚悟とともに、これまでの準備と訓練を活かして適切な対応をせねばならないという決意を固めた。しかし、鳥インフルエンザ(H5N1)ではなく、豚インフルエンザ(H1N1)というし、実態がよくわからない。ただ、致死率は高そうである。

 WHOは、新型インフルエンザの警戒水準を、(1)人の感染リスクは少ない、(2)人の感染リスクが高いウイルスが動物で流行、(3)人の感染例はあるが、人から人への感染はないか極めて限定的、(4)ウイルスの人から人への感染力が強まり、人から人への感染が小集団で発生、(5)より大きな集団で人から人に感染、一地域内の複数の国で流行(6)世界的大流行の6段階に分類している。 

 4月27日、WHO緊急委員会は、フェーズ3からフェーズ4に引き上げることを決めた。決定が下ったのが日本時間の28日午前5時過ぎである。われわれは徹夜態勢で情報を収集しており、50分後の5時50分には新型インフルエンザの発生を宣言する厚生労働大臣声明を発表した。

 そして、同様の内容を直接国民に伝えるために、多くの国民が起床して視る朝のニュース時間に合わせて午前7時から私は緊急記者会見を開き、WHOの決定について説明し、新型インフルエンザ等感染症の発生を宣言した。

 感染症法の規定により、この厚生労働大臣の宣言が本格的な対応の号令となった。私は、政府は水際作戦を強化すること、うがい・手洗いなどの個人の予防努力が重要なこと、正確な情報に基づいて冷静に行動することなどを国民に訴えた。また、麻生首相を本部長とする新型インフルエンザ対策本部も設置した。