東京五輪準備の混乱原因:杜撰な立候補ファイル | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

 2013年1月の立候補ファイルでは、新規恒久施設等の整備は1538億円と見積もられていたが、9月に招致が決定してから再検討すると、4584億円と実に3倍にも膨張することが分かった。

 そこで、財政の制約、環境との両立、選手にとっての利便性、後利用の採算性などについて、厳しい視点から検討し、すべての建設計画について見直すべきだという結論に達したのである。

 大会会場の見直しについては、「見直す」という私の決意が伝わっていたのかどうか分からないが、むしろ森会長のほうから口火を切られたように記憶している。組織委員会は2014年1月24日に正式に発足したが、10日前の14日に森元総理が会長に決定している。そして、その4週間後には私が都知事に就任している。

 森会長は、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の評議会議長ではあったものの、招致ファイルの中身を記したのは都庁の担当職員であり、詳細を熟知していたわけではない。役人が書いたペーパーは、招致レースに勝たんがために、コンパクトで安価にできるという利点を強調した、いわば甘い見積もりであったことは否めないであろう。会長に就任してみて、その見積もりや計画の杜撰さに愕然としたらしい。

 「今さら、当時の役人の責任を追及したところで、何にもならない。ここは、知事と私が腹をくくって大鉈を払うしかない」というのが、森会長の意見で、私も「そうしましょう」と応えた。そこで、早速オリンピック・パラリンピック準備局の幹部を召集して、見直し作業を開始させたのである。その作業状況は、毎週のランチ・ミーティングで森会長と精査する。

 次に必要なのは、都議会の同意である。自分たちが承認した建設計画を、着任したての知事に覆されたのではたまらないと都議会議員が思うのは当然だからである。しかし、森会長と私の共同作業だということが分かると、内田茂議員をはじめとする自民党幹部も承認するし、「気配りの政治家」である森会長が事前に根回ししてくれているはずである。

 こうして、2014年6月10日に開かれた都議会第二回定例会において、私は、都知事として所信表明を行ったが、演説の最後に特筆する形で建設計画を見直す決意を述べた。

 建設計画を再点検すると、想定していた価格の2倍どころか、3倍にもなるのではないかと予測された。誘致のときに、猪瀬前知事は、「カネはある(cash in the bank)」と豪語して、財政的に全く問題がない点をセールスポイントとしたが、カネは天から降ってくるものではなく、都民が支払う税金である。無尽蔵であるはずはない。

 恒常的施設は東京都、仮設施設(後で取り壊すもの)は組織委員会という役割分担となっていた。私は、恒常的と予定されている施設を仮設にする、また新設せずに既存施設を活用するというような方向で検討を加えることを考えた。 

 6月13日には、IOCのバッハ会長やコーツ副会長が来日されたので、お会いして、見直しの決断について理解を求めた。会長は、2020年大会がよりよいものとなるような努力は支援すると応じてくれた。

 *(これ以上の詳細は、拙著『都知事失格』に記してある。)*