中華人民共和国建国70周年記念日と香港の行方 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 10月1日、中華人民共和国は建国70周年を迎えた。天安門広場では、軍事パレードなどの行事が大規模に展開された。中国共産党、そして習近平政権の威信をかけた式典である。

 一方、香港では、6月に始まった反政府デモが沈静化するどころか、ますます激しさを増している。習近平政権にとっては、頭痛の種である。

  香港は、アヘン戦争に敗れた清国からイギリスに割譲されたが、99年間の租借が終わった1997年7月1日に中国に返還された。返還条件は、「港人治港」、「一国二制度」を50年間続けること、つまり、「高度の自治」を香港に認めた上で、特別行政区として中国の社会主義体制とは異なる制度を保証した。

 イギリスは、改革開放を進める鄧小平の路線が進み経済発展すれば中国は必ず民主化すると確信していた。22年前の返還時に香港を取材した私も、国際政治学者として同じ予想をした。

 ところが、現実は、その逆の動きになってしまっている。中国政府は、香港の中国化、つまり自由を剥奪する方向で様々な手段を講じてきた。

 この民主化の後退に対して、香港市民は抗議を続けてきたのである。今回のデモに対しては、中国政府は危機感を抱き、武力介入も辞さない姿勢を繰り返し示してきた。1989年6月4日に天安門事件が起こっており、香港情勢が第二の天安門事件とならないように、北京政府は慎重に動いている。

 一国一制度とは、香港民主派にとっては、中国が民主化し民主主義に一元化されることを、習近平にとっては、共産党一党支配下の制度に組み込むことを意味する。

 台湾の人々は、香港を見て、一国二制度の約束が簡単に空手形になることを再認識させられた。それは、来年1月の総統選挙にも影響を与える。現在の蔡英文民進党政権は独立志向であり、その分、再選への環境が整うと言われている。「香港を支え、台湾を守ろう」という声が台湾で高まっており、中国寄りの国民党が不利になる可能性がある。

 香港は、いわば中国と台湾の中間にあると言ってよい。反政府デモを展開する民主派の市民は台湾型への移行を望んでおり、北京政府はそれを絶対に阻止しようとしている。

 そこで、香港の将来に見切りをつけた人々は、台湾を含め海外への逃亡を図ろうとしている。一方、中国政府と良好な関係を維持することによって商売上の利益を増やそうという人々もいる。彼らにとっては、自由を多少犠牲にしても、実利が上がればよいのである。

 「自由か経済的利益か」、これが香港問題であり、中国人にとってのジレンマでもある。「自由も経済的利益も」というスローガンは、アメリカ第一主義で保護貿易を行うトランプ政権を前にしては,色あせてしまう。