権力の「抑制と均衡」:トランプ政権と安倍政権 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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  トランプ大統領が自分のツイートに批判的な人をブロックしたことに対して、アメリカ高裁は違憲とした。三権分立が機能している。この判決の根拠は米憲法修正第1条で、「言論もしくは出版の自由を制限する法律を制定してはならない」と定められている。トランプはツイッターを利用して政府の仕事をしているので、「公務同然」であり、批判的な意見を表明する機会を失わせてはならないと、3人の裁判官が一致してその理由を説明している。

  このアメリカに対して、日本の役人は安倍政権への忖度行政を行ってきた。なぜそうなるのか。

 第一は長期政権の弊害である。イタリアや日本では、首相が頻繁に交代する短期政権が多くなり、首相の名前すら国際的に認知されないような状態が続いた。これに対して、ドイツは、メルケル政権のように長期安定政権が続くことが多かった。

 外交などを考えると、短期政権は問題であるが、長期政権にもまたマイナス点がある。それは、アクトン卿の言葉のように「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する(Power tends to corrupt and absolute power corrupts absolutely)」からである。

 権力の腐敗を防止するために、モンテスキューが考えたのが三権分立である。その点で、理論的には、三権の分立がより明瞭なアメリカのような大統領制のほうが、議院内閣制よりも、「抑制と均衡(Check and Balance)」が効く。

 しかし、権力の実際の運用を見てみると、日本の内閣総理大臣の権力の巨大さは、アメリカ大統領に匹敵する。つまり、憲法上の規定とともに、最高指導者の権力は、その運用をめぐる状況に左右されるのである。

 私は閣僚として、安倍、福田、麻生の三人の首相に仕えたが、衆参ねじれ国会であり、いずれも短期政権に終わった。ねじれ国会は立法権の行政権に対する牽制力を強める。今の安倍内閣が長期に安定しているのは、衆参両院で安定的な多数派を擁しているからである。 

 権力を牽制する要因としては、自民党内の反対勢力の存在がありうるが、現在の「安倍一強」状態では、中選挙区制時代のような派閥間の切磋琢磨は期待できず、権力の驕りにつながっている。

 第二は、官僚の自律性の欠如である。アメリカのような猟官制度(spoils system)と異なり、日本では官僚の地位は政権交代にはさほど影響されない。

 しかし、頻繁に政権交代(自民党内での首相交代も含めて)があれば、ときの政権に阿たり、首相の意向を忖度したりすることは、役人にとっては危険である。したがって、政権交代が逆説的に役人の自律性を高めるのに役立つのである。

 しかし、6年を超える長期政権で、今後もさらに続くことが予想される内閣に対しては、官僚が忖度行政に走るのも無理もない。とりわけ、上級官僚の人事権が内閣人事局、つまり首相官邸に一元化されるように制度が改革されたので、出世のために役人は官邸の意向を最も尊重するようになる。

 安倍長期政権のメリットとともにデメリットのほうも認識すべきである。