私の読書ノート(22):平壌の都市構造の秘密 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 荒巻正行『巨人の箱庭:平壌ワンダーランド』(駒草出版、2018年9月)

 

 北朝鮮は秘密のベールに包まれている。6月12日にはシンガポールで米朝首脳会談が開かれ、笑顔の金正恩の姿が世界に発信され、北朝鮮が開かれた国になろうとしているかのような印象が持たれた。

 しかし、この国はまだ外の世界には閉ざされており、この状況がもう73年も続いている。ソ連は、1989年にベルリンの壁が崩壊し、1917年のロシア革命から72年で死滅した。社会主義体制の存続という意味では、北朝鮮はソ連を超えたのである。

 「いずれ崩壊する」という前提でこの国を語るのが普通であるが、それだとなぜ全体主義体制がかくも長い間続いているのかの説明もつかないし、外交交渉にも失敗する。

 著者は、北朝鮮について、従来の政治学や国際政治学とは異なる観点から、この特異な国が長期に存続する理由を模索する。著者は、北京を拠点にし、映像記録によって北朝鮮での現地調査を20年にわたり続けている。

 そして、その成果を基にして、北朝鮮の首都、平壌の都市作り、建築物に注目する。自ら撮影した多数の写真を見せながら、独裁者がいかにして自分の思想に合う首都を作り上げていったかを説明する。  

 私も全体主義研究の過程で、ムッソリーニのローマ改造計画やヒトラーのベルリン改造計画(ゲルマニア計画)など、独裁者と都市計画の問題に注目してきたが、著者は北朝鮮について金日成、金正日、金正恩の三代の独裁者がいかにして平壌を作り上げていったかを記述する。

 人口250万人の平壌があって、北朝鮮がある。平壌という都市は、「全体主義のコントロール装置として機能し、北朝鮮という国全体をロボットのように操縦している」(12p)。

 北朝鮮の歴史を辿り、また平壌市民の生活の実態もルポする。現地に精通した者でないとできない作業だ。そして、ヨーロッパ、ソ連の都市計画、建築様式について言及した上で、北朝鮮三代の独裁者の平壌都市建設を分析していく。

 金日成は「新古典主義都市」、金正日は「構成主義都市」、金正恩は「SFバロック都市」と位置づける。それを、著者自らが撮った写真を多数使って説明する。しかし、これは単なる建築論や都市計画論ではなく、なぜデストピアとも呼べるこの異質な体制が存続しているのかを探る文明論、政治体制論にもなっているところが実に面白い。金正恩時代になって、「外から見ていると信じにくいと思うが、北朝鮮は持続可能な社会経済のシステムを一定程度完成させたように見える」(157p)。

 著者は、まとめの「ピョンヤン・フィクション論」で、「平壌とは21世紀の『都市』という怪獣、『進撃のゴジラ』だ!」(262p)とイメージづけている。著者の独創的な北朝鮮を見る視点が面白いし、刺激的である。

 本書のような発想を念頭に置くことが、日朝交渉の成功にもつながるような気がする。