20世紀文明論(10):生活革命②長寿社会・・・❺ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 江戸の「老いの文化」は、隠居ということに大きな価値を置く文化である。隠居と言っても、今の私たちが想像するような「縁側でお茶を飲みながら日向ぼっこ」といった暇な老人ではなく、趣味や社会奉仕などに精を出す極めて行動的な人たちなのである。

 石川英輔氏と田中優子氏の共著『大江戸ボランティア事情』によれば、江戸時代の隠居たちは、現役時代よりも隠居してから大きな仕事をした人が多い・・・というより、隠居後の生活がいわば人生の本番で、そのため現役時代をせっせと働いていたのではないかと思えるような例がかなり見受けられるのだ。また、仕事といっても、もうけるためというより、社会奉仕、ボランティアのような仕事をするために隠居した人も多い」という。

 江戸の隠居の例としては、回国の僧侶である野田泉光院(隠居した歳は56歳、以下同じ)、『東海道五十三次』の歌川広重(36歳)、一茶の庇護者、夏目成美(34歳)、向島百花園の創始者、佐原鞠塢(さわらきくう)(40歳代前半)、江戸落語中興の祖、烏亭 焉馬(うていえんば)(40歳)、伊能忠敬(49歳)などがいる。

 彼らは、隠居後の活躍によって歴史に名を残したのである。引退後、つまり老後こそ、趣味なり、社会奉仕なり、自分の本当にやりたいことに専念して、人生を輝かしいものにしたのである。

 現代と江戸時代を単純には比較できないが、少なくとも「老い」に高い価値を置く発想は学んでもよいのではないか。

 山口県で行方不明になった2歳の男児を発見し、8月15日に救出し、大きな注目を集めたボランティアの尾畠春夫さん(78歳)の生き方が、まさに江戸の理想的な隠居の姿である。尾畠さんは、大分県の別府市で鮮魚店を営んでいたが、65歳で隠居し、ボランティア活動に余生を捧げることにしたのである。