国際政治学講義(72):(5)世界システム論②ポスト・パックス・アメリカーナ・・・⑤ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 アメリカは、トランプ政権になって、他国に対して「応分の負担」や「公平な負担」を求めてきている。経済、通貨、安全保障など様々な分野でそうである。

  それでは、パックス・アメリカーナの下で、国際公共財とは何なのか。第一は、自由世界の安全保障である。第二は、自由貿易体制を維持、発展させることである。第三は、ドルを基軸通貨とする国際通貨・金融システムの円滑な運営である。

 これらの他に、対外援助、国連活動への支援、研究開発、難民受け入れなど、国際公共財と考えられるものを列挙できるが、パックス・アメリカーナとの関連では、先の三つの公共財とはカテゴリーもレベルも異なるであろう。

 1960~1970年代のベトナム戦争後、金ドル交換停止・変動相場制への移行など、アメリカの力は相対的に低下した。しかし、1989年のベルリンの壁の崩壊以降、アメリカは国力を回復していった。

 今日の時点で見れば、安全保障でも貿易でも通貨・金融でも、アメリカの優位は揺るがない状況である。しかし、アメリカは、日本やヨーロッパ諸国にフリーライドを許さず、経済力に見合った分の国際公共財供給のコストを負担することを求めているのである。

 たとえば、2017年の各国の国防費の対GDP比を見ると、アメリカ3.15%、イギリス1.83%、フランス2.26%%、ドイツ1.22%である。トランプ大統領は、NATO首脳会議で、加盟国の国防費を対GDP比で4%まで上げるように求めたが、それはNATO全体の国防費の約7割をアメリカが負担しているからである。まさに「応分の負担」を要求したと言えよう。

 因みに、日本の数字は0.93%である。今のところ日米防衛摩擦は起こっていないが、この数字を見れば、トランプ大統領が日本に対しても同様な要求を突きつけてくる可能性は十分にある。

 安全保障の分野では、自由世界にとっての潜在的敵国は中国やロシアである。両国の国防費の対GDP比は、中国が1.91%、ロシアが4.26%である。

 米ソ冷戦が終わった今日、アメリカの覇権に対抗しているのは、この両国であるが、軍事でも貿易でも、最大の挑戦国は中国であると言って良いのではなかろうか。