国際政治学講義(67):(5)世界システム論①理論的構造・・・⑫ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 国力をどのように測定するかということを検討しているのは、パックス・アメリカーナの下で、どの国がアメリカの挑戦国となり、また次期覇権国にいずれの国がなるのかを、世界システム論的観点から見極めたいからである。

 1986〜87年に当時の経済企画庁総合計画局が総合国力についての調査研究を行い、その専門研究会には私も参画した。その研究成果を参考のために引用しておこう。

 まず、総合国力を①国際貢献能力、②生存能力、③強制力の三つによって構成されるものとする。

 国際貢献能力とは、国際システムの形成・発展のイニシアティブをとり、国際社会の発展に寄与しうる能力である。その基礎力としては、①経済力、②金融力、③科学技術力が、またその政策力としては、①財政力、②対外活動への合意、③国際社会での活動能力が構成要素である。

 次に生存能力とは、国際的な危機の際に生き残る(サバイバル)能力である。生存能力の構成要素は、①地理、②人口、③資源、④経済力、⑤防衛力、⑥国民の意識、⑦同盟・友好関係の7つである。

 第三の強制力とは、自国の意思によって多国の行動を強制的に変える力である。この構成要素としては、①軍事力、②戦略物資・技術、③経済力、④外交力の四つがあげられる。

 30年前の時点で、日本のスコアが最も高いのは、三つの能力のうち、一番目の国際貢献能力であった。核抑止力のおかげで大国間の戦争は起こらない、国家間の相互依存関係がますます深化するという前提に立てば、生存能力や強制力よりも国際貢献能力が最も重要なものとなってくる。

 その観点から、国際貢献能力を50、生存能力を30、強制力を20にしてウエイトづけを行って、総合国力を算出してみると、アメリカ100、ソ連75、日本53、西ドイツ47、イギリス45,フランス45であった。

 この調査の2年後にベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終わり、世界は様変わりしてしまった。中国がGDPで世界第二位の大国になるなどとは誰も想像だにしなかったのである。

 このような30年間の大きな変化が、実は世界システム論の有効性を揺るがすことになってしまい。この理論は注目されなくなった。しかし、国際政治史を振り替えるときに、今日でも大いに参考になる視点が数多く含まれているように思う。