国際政治学講義(65):(5)世界システム論①理論的構造・・・❿ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 ③の大国間の「30年戦争」が、実現の可能性が最も小さいと言えるであろう。第二次大戦後は、米露英仏中などの大国は、いずれも核武装しており、核抑止力が効いている以上は、大国間の戦争は起こりえないと考えるのが常識であろう。

 一つの大胆な解釈は、ヴェトナム戦争を「30年戦争」とみなすものである。ヴェトナムは、最初はフランスと、次いでアメリカと戦ったが、この一連の戦争は1946年に始まり、1975年に終わっている。まさに「30年戦争」である。

 戦場はヴェトナムに限られたが、戦争に直接的、間接的に関わったのは、ヴェトナムの他はアメリカ、フランス、ソ連、中国と世界の大国であった。つまり、間接的ながら大国間の戦争、代理戦争と見ることもできる。

 このような代理戦争としては、1950年に勃発した朝鮮戦争もまた忘れることができない。朝鮮戦争は、1953年7月27日、板門店で休戦協定が調印されて終わる。

 因みに6月12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談では、朝鮮戦争を正式に終結させることも議題に上るとの予測もあったが、実際には議論されなかった。朝鮮戦争もまた、ヴェトナム戦争と並んで30年戦争の中に含むことができるのかもしれない。

 ヴェトナム戦争が注目に値するのは、この戦争がアメリカの力を大きく殺いだからである。経済的には多額の軍事費の出費で、それまで常に黒字を計上してきた経常収支が赤字に変わる。アメリカは、豊富な余剰資金を援助などの形で世界に還流させて戦後の復興に大きく貢献してきたのであるが、もはやそのような寛大さが許されるような経済状況ではなくなったのである。

 また金融の面でも、固定相場の維持が困難になり、ドル防衛という守勢の立場に陥ってしまう。さらに、軍事的にも、アジアの一小国、北ヴェトナムに勝利できないアメリカの権威は失墜する。

 文化やモラルの面でも、アメリカン・デモクラシーやアメリカ的生活様式の放つ輝きは消え失せ、アメリカの内外でヴェトナム反戦の嵐が吹き荒れる。そして、麻薬、家庭の崩壊といった病理現象がアメリカ社会を蝕んでいく。

 1970年代に入って、アメリカの力が相対的に衰え、パックス・アメリカーナに綻びが目立ちはじめるが、それにはこのヴェトナム戦争が大きく与っていると言えよう。したがって、この戦争を「30年戦争」とみなしても、あながち的外れとは言えない。

 しかし、そのような思考実験は1989年のベルリンの壁の崩壊で大きな変更を迫られることになる。