国際政治学講義(55):(4)20世紀の意味 ③ナショナリズム・・⑯ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 ベルギーは、スイスと並んで、異なる言語圏が共存している主権国家である。若い頃、フランス、スイス、ドイツに留学したが、ベルギーはフランスの隣国なので、よく自分で運転して行ったものである。

 首都ブリュッセルはもちろんのこと、ブルージュ、ゲント、アントワープ、リエージュなど、多くの町を訪ねたものである。今は、EUの本部があり、まさにヨーロッパの首都と言ってよい。

 人口約1100万人のベルギーは、北部のオランダ語(フラマン語)系住民の住むフランデレン地域と南部のフランス語系住民が居住するワロン地域から成っている(一部ドイツ語が公用語の地域もある)。この両者の言語戦争は凄まじいものがある。

 私は、パリから出かけたのでフランス語系ベルギー人と一緒することが多かったが、デモなどを厳しく取り締まる警察官がいると、「あいつはフラマンに違いない」と、フラマン語系の悪口を言う。また、フラマン地域のスーパーに買い物に行くと、フラマン語と英語でしか表示がないし、フランス語が通じず、英語で用を足したものである。自国の言葉であるフランス語も並記すべきだと思ったが、いかに言語対立が激しいかよく理解できたものである。

 仏独伊三カ国語が公用語のスイス(人口約840万人)では、スーパーのみならず、バス停などもすべて三カ国語の表示がある。ただ、ドイツ語系はフランス語を、フランス語系はドイツ語を話さない。スキー合宿の時、ドイツ系スイス人とフランス系スイス人の間で、日本人の私が通訳を頼まれたことがある。ベルギーでも、事情は同じである。

 ベルギーは、ナポレオン戦争後のウイーン会議(1815年)でネーデルランド連合王国に組み込まれるが、1831年にレオポルド国王を戴いて独立を実現する。この王室こそが、国家の統一性を担保しているのである。

 W杯で快進撃を続けるサッカーチームも、また国家の一体化に寄与している。フラマン語とフランス語の対立を避けるため、チームでは英語を使うことになっている。また、食事を含め、言語圏毎の別行動を禁じている。

 因みに、ベルギーでは色んな種類のビールが飲める。国民1人当たりビールの消費量では、①チェコ、②アイルランド、③ドイツ、④オーストリア、⑤イギリス、⑥デンマークに次いで、7位である(日本は25位)。

  複数の言語が公用語であるイスやベルギーのような主権国家が存在することもまた、ナショナリズムの超克を目指すときに念頭に置いておきたいものである。