国際政治学講義(54):(4)20世紀の意味 ③ナショナリズム・・⑮ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 エスノセントリズム(ethnocentrism、自民族中心主義)は国民国家を分裂させる危険性を孕んでいるが、それを克服している国々の例をあげてみよう。

 たとえばスイスである。私は、1976~1978年の2年間、スイスで研究生活を送ったが、日本と対極的な「国の形」に驚いたものである。要するに、「日本の同質性とスイスの異質性」である。日本は、人種的、文化的に極めて同質性の高い国であり、そのため国家の一体性が容易に保て、危機に際しては強力なナショナリズムを動員できる。

 これに対してスイスは、1291年にウリ、シュヴィーツ、ウンターヴァルデンという三つの地方による同盟を起源とし、その後、多くの地方がこれに参加して、1815年に現在のスイス連邦が形成された。現在23州(カントン)から成る連邦国家で、自治権が強く、独立国家の集合体という感じである。

 人種的にはケルト、ブルゴンド、アラマン、言語的にはドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンス語、そして宗教的にはプロテスタント、カトリックと、多様な異質なものの集合体である。つまり、スイス人は、人種や言語や宗教の異なる人々が契約によって国家を形成しているのであった、そのような国家の統一を保ち、ナショナリズムを発展させるためには、恒常的な努力が必要である。

 今回のサッカーW杯でも、スイスはグループEで健闘し、ブラジルに次ぐ第二位で決勝トーナメントに進んだが、このようなスポーツ国際試合での活躍も、国家の統一に役立っている。

 スイスは永世中立国として有名であり、第二次大戦の反省から、戦後「日本はアジアのスイスになれ」というような発言もあったが、これはスイスに対する無理解から来るものである。まず、スイスは国民皆兵の重武装国家である。

 そして、中立政策は外交政策というよりも内政政策なのである。つまり、ドイツ、イタリア、フランスという大国に囲まれたスイスという小国が、各地方の独自性を尊重しながら国家の独立と統一を保ち続けるためには中立政策しかないのである。ドイツと同盟すればフランス系、イタリア系のスイス人は反発するし、フランスと手を握ればドイツ系、イタリア系のスイス人が批判するからであり、イタリアに肩入れすれば、ドイツ系、フランス系のスイス人は顔をしかめるからである。

 スイスは、「アルプスのハイジ」に象徴される風光明媚な国であるが、それ以外の側面ももっと注目されてよい。