国際政治学講義㊼:(4)20世紀の意味 ③ナショナリズム・・❾ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 保護貿易主義的な政策を強硬に推進するトランプ大統領に対して、野党の民主党のみならず、与党の共和党からも批判的な声があがっている。地球温暖化への国際的取り組みからの離脱も同様な批判に晒されているが、各州や都市からは国の政策に反対し、独自にパリ協定の取り決めを進めようという動きがある。アメリカが連邦主義であることが、健全な民主主義を担保しているのである。

 ここで、政治思想的考察を加えてみたい。トランプ大統領は、「主権は人民(アメリカ国民)にある。その主権者によって私は選ばれた。したがって、支持してくれた有権者の望みを体現して、TPP脱退、保護関税、メキシコ国境での壁建設などを実行するのは当然である」と主張する。

 これは、権力の源泉が人民にあると「人民主権論」を唱えたルソーの主張を強調した議論である。この思想を背景にして歴史を変えたのが、フランス革命である。そして、その前に起こったのがアメリカ独立革命である。

 アメリカの場合、フランスと違って人民による独裁にもならず、ロベスピエールも生み出さなかった。フランスでは、封建制下で苦しんでいた貧しい人々が王政を崩壊させたのに対して、アメリカでは本国のイギリス人と同等の権利を持つことを求めた(結果的に独立したが)ものであり、旧体制を打倒するような革命ではなかった。しかも、アメリカ各州が自治を行いながら、連邦国家を形成したことが、フランス革命のような全体主義独裁になることを阻止したのである。

 ここで注目すべきは、ルソーではなく、モンテスキューであり、マディソンである。つまり、権力の淵源、つまり人民主権を強調するよりも、権力の分立を重視する立場である。

 モンテスキューの三権分立は、大統領制のアメリカで実現しており、議会や裁判所が行政権を牽制する役割を果たしている。ただし、議会は、トランプ与党の共和党が多数派を握っており、表だった反対はしない。しかし、たとえばトランプ政権の移民排斥政策に対しては、10州以上300以上の自治体が反対している。

 まさに、トランプ流の「アメリカ第一主義」をチェックする重要な役割を果たしているのが連邦主義であり、それを強調したのがマディソンである。権力の源泉が人民であっても、広いアメリカでは直接民主主義は不可能であり、権力の行使は人民から選ばれた代表が行い、連邦制が現実的な政体だとしたのである。

 ハミルトン、ジェイとともに“The Federalist”を執筆したマディソンの主張が、今日のアメリカの民主主義を守っていると言えよう。