国際政治学講義㊹:(4)20世紀の意味 ③ナショナリズム・・❻ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 第二次大戦後の分断国家として、東西ドイツ、南北ベトナム、北朝鮮・韓国を挙げたが、20世紀のナショナリズムを考えるとき、ナチスドイツのことも忘れることができない。

 アドルフ・ヒトラーは、1889年4月20日、オーストリアのブラウナウで生まれた。つまり、彼はオーストリア人である。ドイツ民族であるが、国籍はオーストリアであり、一民族が二つの国家に別れていた。

 今の朝鮮半島もそうであり、朝鮮民族が北朝鮮と韓国の二つの国家に別れている。一民族が複数の国家に別れていても、何ら問題はない。一民族一国家というのは、ナショナリズムがもたらした神話である。

 ヒトラーは、アーリア民族の優秀性を訴え、ドイツ人の統一を考えた。それを実行したのが、1938年3月13日の独墺併合(アンシュルス、Anschluss)であるが、第二次世界大戦は事実上この日に始まったと言ってもよい。ヒトラーの力による恫喝の成果であり、「大ドイツ主義」の下、オーストリアは消滅し、ハーケンクロイツの旗で覆われてしまった。

 ミュージカルの『サウンド・オブ・ミュージック』は、ナチスに併合されたオーストリアが舞台である。主人公のトラップ少佐一家はスイス国境を越えて亡命している。

 一民族一国家という神話が、このアンシュルスにつながり、それは第二次世界大戦への道を切り開いた。映画『ゲッベルスと私』の中で、ゲッベルスの元秘書ブルンヒルデ・ポムゼルもまた、同趣旨の回想をしている。

 当時のドイツは6500万人、オーストリアは5000万人の人口をかかえており、オーストリア人であるヒトラーは両国を統一する事が夢であった。ヒトラーは『わが闘争』の中で、次のように述べている。

 「今日わたしは、イン河畔のブラウナウが、まさしく私の誕生の地となった運命を、幸福なさだめだと考えている。というのは、この小さな町は、二つのドイツ人の国家の境に位置しており、少なくともこの両国家の再合併こそ、われわれ青年が、いかなる手段をもってしても実現しなければならない畢生の事業と考えられるからだ!」

 第二次大戦後、1955年にオーストリアは再独立したが、ドイツとの合併を永遠に禁止した。

 ヒトラーの政権掌握から今日に至るオーストリアの歴史は、一民族一国家という神話の持つ問題を雄弁に語っている。「ヒトラーのドイツ」を「金正恩の北朝鮮」に、オーストリアを韓国に言い換えたら、背筋が寒くなる。