私の読書ノート(9) | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

吉原祥子『人口減少時代の土地問題・・「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ』(中公新書、2017年)

          *     *     *

 

 全国で820万戸にのぼる空き家問題については、マスコミも大きな関心を寄席、多くの国民の間で問題が共有されるようになった。国会でも2014年には、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が成立した。

 しかし、誰のものかわからない土地が私有地の20%もあるという「所有者不明化」という問題については、現状について一般の認識もほとんどない。しかし、この問題は相続などに関する個人の問題であるとともに、地域の有効な土地利用を妨げる全社会的な広がりを持っている。

 これまで、不動産実務家、地方自治体の担当者、法曹関係者などの間ではこの問題の深刻さが話題になってきたが、国民の共通関心にまで高められていなかった。そのような状況に危機感を抱く著者は、多くの人が手に取れるように本書をまとめてくれた。時宜に適った好著である。

 所有者不明化の大きな要因は、相続未登記である。相続登記は任意であるし、登記をしなくても困らない。また、資産価値以上に登記コストがかかることも理由である。そもそも日本には土地情報を一括して管理するシステムが欠落している。不動産登記簿、固定資産課税台帳、農地台帳などバラバラで相互に関連がない。所有者不明の土地が出てきても、相続人が全国に散らばっていたりすると対処ができなくなる。だから行政も尻込みする。

 少子高齢化が進み人口が減少すると、土地の資産価値は下落する。団塊の世代が高齢化する時代がくると、年間死亡者数は増え、相続発生件数も増える。また、外国人による日本の土地所有も増えている。このような時代の変化に、人口増を前提にした土地制度が対応できていない。

 著者は全国888自治体で調査を行い、固定資産税実務から見て、死亡者課税、課税保留、不納欠損処分などが行われている実態を明らかにする。人々の土地に対する意識も変化し、相続未登記、相続放棄が増えている。しかし、地方自治体は基本的に土地の寄附を拒否する。

 背景にあるのは、諸外国に比べて日本では地籍調査が進んでいない(仏、独、韓国、台湾が100%完了しているのに、日本は52%)ことがある。六本木6丁目の再開発が遅れたのもそれが理由である。また、不動産登記制度の不備もある。こうして所有区分(国有地、都道府県有地、市町村有地、民有地など)が不明な土地が国土の28.2%にもなっている。強すぎる所有権、土地神話もまた問題の解決を妨げている。

 著者は全国の自治体などの取り組みを参考に解決策を提示しているが、この問題は国会で議論し、政治のリーダーシップによって方針を決めるべきである。さもないと、今後の日本に大きな禍根を残すことになろう。