私の読書ノート(8) | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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ビル・エモット『「西洋」の終わり』(日本経済新聞社、2017年)

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 イギリスのEUからの離脱、アメリカでのトランプ政権誕生と、世界にはポピュリズムの嵐が吹いている。また、中東、北アフリカなどを活動拠点としてISなどがテロ行為に走り、パリ、ベルギー、バルセロナなどヨーロッパの大都市が標的になっている。また、中国が東南アジアへの海軍拡張や「一帯一路」構想で世界に向かって勢力拡大を企てている。ロシアは、クリミアの併合など国際ルールを無視している。

 このような世界をどう解釈するのか。問題の根源は何なのか。そして、明るい未来への展望を懐くにはどうすればよいのか。このような問いに答えようとするのが本書である。著者は『エコノミスト』の特派員として日本に勤務したことがあり、その後、編集長にもなっている。知日派で、『日はまた沈む』(1990年)、『日はまた昇る』(2006年)など、日本を分析した著書も書いている。その著者が、世界の政治や経済についての該博な知識を基に、今という時代にメスを入れていく。

 「西洋」という概念は、開放性と平等という二つの理想に支えられ、繁栄、安全、安心、幸福を人々にもたらしてきた。開放性の表れがグローバリゼーションであるが、トランプの「アメリカ・ファースト」に見られるような排外主義的ナショナリズムが台頭している。「私たちは民主主義と経済制度を清掃し、修理しなければならない」(26p)と著者は言う。

 ロシアやベネズエラでは、開かれた社会に必要な「法の支配」も「立憲主義」も守られていない。2008年のリーマン危機は世界経済を混乱させた。この経済危機と高齢化の進行は、社会保障の信頼性を低下させている。格差・不平等の拡大も大きな問題である。移民問題がナショナリズムに拍車をかけている。Brexit

やトランプ現象は、国際協調に冷や水を浴びせかけている。

 「西洋」民主主義の欠陥は、決定に時間がかかり、選挙を考えて有権者に厳しい判断を求めないことにある。高齢者のほうが若者よりも投票所に行くので、年金カットなどが難しくなる。しかも、政治がカネに支配されるようになると、富裕層は政治過程に大きな影響力を発揮し(たとえば相続税制)、それは貧富の格差をさらに拡大させる。 

 アメリカでは麻薬などの犯罪で受刑者が増え、それが労働力の減少につながっている。2010年最高裁は、選挙運動への献金を「言論の自由の一形態」と判断したが、それもまた政治腐敗を進めている。しかし、カリフォルニア州のように改革を開始した州もある。イギリスもかつては労働者のストに悩まされたが、クリエイティブな産業が興り、再生への道を歩んでいる。欧州大陸、日本についても著者は適格なコメントをする。

 西洋(日本も含む)が復活するかどうか、それは私たちの努力にかかっている。しかし、必ずしも楽観的な要因のみではない。西洋型民主主義は、開放性と平等、この二つの指針をどこまで貫き通せるのであろうか。本書は刺激的な問題提起の書である。