新篠津村への要望書 | 新篠津ツルコケモモを守る会

新篠津ツルコケモモを守る会

北海道の新篠津村で再発見された高層湿原(ミズゴケ湿地)とその保護について、情報を発信していきます。

去る1月10日、当会は新篠津村に以下の内容の要望書を提出しました。

 

 

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新篠津村内における生物多様性保全に関する要望書

2019年1月10日

新篠津村長  石塚 隆 様

新篠津ツルコケモモを守る会 会長  高橋 至
(連絡先)

同 事務局長  齋藤 央
(連絡先)

 日頃の村政運営に対し心より敬意を表します。

 2016年に結成された当会の活動を通じて、新篠津村内には太古の石狩大湿原の姿を今日に留める様々な形態の湿原が随所に残存し、全体としてかつて石狩大湿原に生息していた動植物の大半が生き残っていることが、明らかになっております。これらの湿原は、新篠津村が日本、ひいては世界に誇るに値する貴重な自然環境であり、適切な手法・形態で維持・保全し次世代に受け継がれるべきものであります。これらの湿原の維持・保全に当って新篠津村が主体的な役割を担うことは、石狩平野における生物多様性の保全において新篠津村が具体的に貢献することを意味するものであり、新篠津村が挙げて取り組むに値する崇高かつ重要な責務であります。
 折しも、SDGs(「持続的な開発目標」の略称。2015年9月の国連総会で採択された『我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための2030アジェンダ』で掲げられた具体的行動指針)が近年とみに注目を集めております。SDGsが掲げる17の目標の一つに

 

     目標 15. 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、

          持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに

          土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を

          阻止する

 

が挙げられており、上で述べた村内の残存湿原の保全は、目標15の具体的ターゲットの一つ

 

    15.9  2020年までに、生態系と生物多様性の価値を、国や地方の

       計画策定、開発プロセス及び貧困削減のための戦略及び

       会計に組み込む。

 

に相当しうるものであります。生物多様性の保全を新篠津村政の基本指針に組み込むことは、包括的かつ多岐に及ぶSDGsの目標やターゲットの一部を新篠津村政に位置付けることであり、SDGsに基づく包括的な村政指針を確立する端緒となりうると考えられます。

 然るに、2019年3月末までを期間とする現行のまちづくり総合計画では、村内の自然環境やその維持・保全・再生に関する具体的な指標や記述が無く、自然環境について新篠津村が取り組む根拠や指針が存在しない、という大きな盲点があります。現行まちづくり計画策定後に得られた知見によって守るべき自然環境の存在が明らかになっている今、斯様な盲点が現在策定中の新たなまちづくり総合計画に引き継がれることは、何としても回避されねばならないと考えます。
 また、新篠津村には文化財保護条例が無く、村内の各種文化財(自然環境・動植物を含む)の重要性を検証しつつ必要と判断したものについて村の指定文化財(天然記念物を含む)とする途が閉ざされており、新篠津村が村内の文化的資源を適切に掌握・管理しまちづくりに活用するに当って無視すべからざる桎梏となっております。

 また、新篠津村全職員を対象とした系統的・持続的な啓発は、喫緊の課題です。
 当会結成から2年半を経過した今、新篠津村議会議員8名中2名が当会行事に参加しております。また、去る2018年11月10日に当会が開催した公開学習会では参加者24人中10人を新篠津村民の方々が占めましたが、これは新篠津村の総人口の0.3%に相当し、札幌市に換算すると約6000人になります。数多の市民団体が自然保護や環境問題をテーマに活動している札幌市においても単一の企画で1000人も集まることが滅多に無いことを考えると、新篠津村民の自然環境への関心は決して低くないことがわかります。
 当会は、主に新篠津村教育委員会を通じて、当会の活動を通じて知り得た村内の自然環境に関する情報を新篠津村と共有するよう、日々努めております。当会から既に情報が提供されている今、新篠津村に今求められていることは、今後どのようなテンポで何に取り組むか、何が課題か、その課題をどのような方針で解決していくか、明らかにし、実行に移すことです。
 然るに、当会や当会が参加するしめっちネット(石狩川流域 湿地・水辺・海岸ネットワーク)が主宰する各種行事を新篠津村職員が参加ないしは視察を目的に訪れた例は、今日に至るまで絶無であります。斯様な実態は、先に触れたような新篠津村民の意識や、当会の新篠津村への協力的な姿勢とは凡そ相容れないものであり、この分野での村職員の意識の立ち遅れを危惧せざるを得ないものであります。同時に、当会の活動を通じて新篠津村に新たに注目している村外の数多の市民の思いに背を向けるものであり、新篠津村の威信を大きく傷つけるものであります。
 新篠津村に潜在的に課せられている自然環境・生物多様性保全の課題の重要性に相応しい規模と内容で、この分野での新篠津村の全職員が知識や意識を高めていくことが、切望されております。これについて何ら前向きの変化が生じない状態が放置され、自然環境・生物多様性保全に然るべき気概と体制を以て臨む村政運営が実現せず、村内の貴重な自然環境が放置され続けるならば、平成の大合併において江別市との合併を是とせず自立した自治体運営を選択した新篠津村の存在意義が根本から問われるのではないか、と、当会は考えます。

 以上の認識を踏まえ、当会は以下のとおり要望するものです。

1. 2019年4月1日から始まる新たな新篠津村まちづくり総合計画に、村内の自然環境の維持・保全・再生を目的とした章を設けること。
1.1. 当該の章を設けるに当って関係者の正確な理解を期すべく、当会が2017年7月に村に提出した『新篠津村の湿原 保全のための報告と提案』の謄本を、まちづくり総合計画策定協議会の全委員に書面で配布し、内容を周知すること。但し、当会派遣の講師による講習で代えることを妨げない。

2. 新篠津村文化財保護条例(仮称)を2019年度末までに制定すべく、直ちに検討を開始し、制定に到るまでの期間に開催される村議会において進捗状況を報告すること。

3. 村内の自然環境や生物多様性について評価・検討し、村政運営に反映すべく、環境行政や村内の自然環境に精通した複数の常任・非常勤の委員で構成される審議会を、2019年度末までに発足させること。
3.1. 当会の活動を通じて村内の自然環境について本格的に検討する必要が生じ、審議会の発足の契機になったことを踏まえて、当会が推薦する学識経験者ないしは当会会員1~2名を審議会委員に含めること。
3.2. 審議会は年度あたり1回を下回らない頻度で開催し、議事録は公開すること。

4. 村内全域ならびに重要と目される区域の自然環境を把握し、村政運営の基礎資料とすることを目的に、当会へのヒアリングを含めた包括的な調査に2020年度末までに着手すべく、直ちに検討を開始すること。
4.1. 調査の迅速性・精度を確保すべく、生物同定・環境調査・評価の専門技能を有する業者への委託を視野に入れること。
4.2. 調査結果は調査事業完了から1年以内に公刊し、村内外の市民による利用を可能にすること。
4.3. 調査結果に基づいて、調査事業完了から1年以内に、村内の自然環境や生物多様性保全に関する啓発パンフレットを作成し、村内全世帯への配布、村役場やその他村内主要機関・施設での常備、村外での頒布などを通じて活用すること。

5. 前条の調査結果に基づいて、調査事業完了から2年以内に、新篠津村の自然環境や生物多様性の保全に関する総合計画を策定すること。

6. 当会が把握している残存湿原について、学校教育の教材としての活用を2020年度初頭から開始すべく、当会へのヒアリングを含めた検討を直ちに開始すること。

7. 当会が把握している残存湿原について、社会教育の教材としての活用を2019年度中に開始すべく、当会へのヒアリングを含めた検討を直ちに開始すること。

8. 村職員が上記各項を達成する素養を培うべく、2019年度初頭より、湿地・自然保護団体主催行事への参加を含めて、新篠津村職員の庁内・庁外での研修の機会を保障すること。
8.1. 庁外研修の頻度は年度あたり4回、延べ参加人数6人を下限とすること。
8.2. 庁外研修のうち年度あたり延べ2人分を下限とする範囲を、村内の湿原や自然環境の学習・把握を目的に、当会が新篠津村内で開催する行事への参加を以て充てること。但し、当会派遣の講師による全村職員対象の研修会で代えることを妨げない。
8.3. 遅くとも2020年度より、新入職員への研修・教育の一環として、当会派遣の講師による村内の残存湿原やその他自然環境に関する講習を行うこと。
8.4 庁内・庁外の別を問わず、研修に要した時間は公務の時間に計上し、時間外手当の支給や代休取得の対象とすること。

以上