ウクライナと北方領土にみるプーチン大統領の安全保障政策【時事所感105】
ロシア軍のウクライナ国境周辺地域への大規模展開が各種メディアを通じて大きく報道されているのは御存知でしょう。
このニュースを理解するのに必要な国際政治や外交問題の規範的思考や枠組みがあります。
「勢力均衡」です。
“Balance of power politics”
“Balance of power theory”
国際政治学や外交史を紐解くと、この理論に辿り着きます。
外交問題、国際政治の思考法の一つで、
かなり大雑把な解説になりますが要約すると、
特定の一つまたは二つの国家が経済力や軍事力で突出するのではなく、各国家が経済力や軍事力等の影響力を均衡状態に保つことで、紛争や地域不安を抑止させる、バランス型の国際秩序維持のための政策を意味します。
話をロシア、ウクライナに戻します。
ロシアのプーチン大統領は毎年末の長時間にわたる記者会見を昨年末も行っています。
この記者会見のなかで、
「NATO設立時、東へは拡大しないと言った」
「あれから5回も東へ波を起こし拡大させた」
「図々しく我々ロシアを騙したのだ」
「今やポーランドやルーマニアに弾道ミサイルをシステム配備している」
「西側欧米諸国は我々ロシアの安全保障のための保障を約束するべきだ。今、直ぐにでも。」
「西側欧米諸国の各国の、『諸国全体の安全保障が』というレトリック、屁理屈を何十年もかけて言ってきて、我々ロシアを手玉に取ろうとした。」
「その間に西側欧米諸国は自分達の計画を着々と進行させてきている。」
「ロシアの軍事侵攻はNATO、西側諸国の出方次第だ」
怒りの表情を浮かべ、興奮気味に述べています。
※因みに、ここでプーチン大統領が言及している東へのNATO加盟国拡大は、
旧ソビエト連邦領から独立したバルト三国「エストニア、ラトビア、リトアニア」がNATOに加盟、欧米諸国側に軍事同盟を締結、欧米側に取り込んだことを指摘、非難しています。
このプーチン大統領の発言内容に関しては、NATO側は文書等確約したことは無いと否定しています。
ところで、1980年代頃、当時のニュースや新聞報道を日頃チェックされた方々は、記憶にあるかもしれません。
NATO設立の話が出始めた頃、初めはヨーロッパ地域独自の安全保障体制を整えたいために、アメリカ合衆国抜きの欧州諸国安全保障連合を計画したものの、
これに米国が異を唱えて、途中から米国が加わる話に展開していきました。
これにロシア、当時のソビエト連邦はNATO設立自体懸念し、米国加盟にも尚のこと懸念を示していました。
ソビエト連邦は予測し、理解していました。
米国が欧州軍事同盟に加盟すれば、米国主導の組織になって、ソビエト連邦の国益を損ない、安全保障、国家存続に必ず禍根を残すことになる。
ましてや、無歴史に等しい程に歴史の短い、歴史からの経験則の無い米国主導では過剰なまでにロシアはやり込められてしまうだろうと。
私達日本に関係ある話をします。
北方領土問題です。
2018年11月、ロシア・プーチン大統領と日本・安倍首相との北方領土返還交渉の話に、
「北方領土を日本に返還するならば、北方領土に米軍や米軍基地を展開しないことを公式文書に日米首脳間で合意して欲しい」
と日本側に要求しています。
この2018年11月以前からプーチン大統領は幾度も
北方領土での米軍基地建設を危惧していました。
こうしてお話すると分かり易いかと思います。
西からNATO軍事同盟国拡大、ミサイルシステム配備。
北方領土を返還すると、
東には新たな米軍基地が建設、米軍展開。
城の外堀から内堀まで埋められた大坂の陣みたいになっていくような例えでもいいでしょう。
ウクライナ国境からロシアの首都モスクワまで500km、
東京~大阪間程度の距離の近さ。
仮にウクライナがNATOに加盟して、ミサイルシステム配備されると、
有事にはミサイルが短時間で首都モスクワへ着弾。
軍事侵攻の事態になれば、首都モスクワは風前の灯火の様に即時首都陥落は想像に難くない。
プーチン大統領が行っているのは、ロシアの安全保障のための保障を欧米NATOから引き出し、米国や欧州軍事同盟との勢力均衡を保つための駆け引きの外交ゲームをしているのです。
日本を説明できますか【時事所感104】
もう何年も前の話。
外国からのバックパッカー風の青年がATM機の前で困惑した様子だったので、少しお手伝いした。
私: 「英語出来る?分かる?」
彼: 「英語はほんの少し。ほぼ無理」
私: 「国はどこ?」
彼: 「フィンランド」
私: 「ああ、F1のミカ・ハッキネンが有名、いいドライバーだね」
二人笑い
コーヒーとジャンクフードを御馳走しながら、立ち話。
私: 「日本には観光?仕事?」
彼: 「旅行。インドからスタートして東南アジア諸国を巡って、中国、韓国、さっき日本に着いた。日本がこの旅の最終なんだ。」
私: 「旅行の目的は?」
彼: 「仏教の国を巡る旅。いろいろな宗教の本を沢山読んでいるうちに、仏教に興味が湧いたんだ。仏教の『瞑想』という行為が素晴らしい。悩みや雑念が払われて、心が凪いで、頭の中がクリアーになるんだ。スウェーデンにいた時にやってみて驚いた。是非仏教の旅をして、現地で本場の瞑想を知りたい、瞑想をしたいと思った。もっと仏教について知りたいんだ。」
彼: 「日本で仏教について訪ねるべきお勧めの寺院は知ってるかい?」
これには返答に困りました。
私: 「観光で有名な寺院ならば、京都や奈良が沢山あるよ。けれど、君が欲するような寺院は現地で尋ねたほうがいいと思う。
日本は古来の固有の伝統的信仰『神道』shing-tohという土着的信仰や天皇陛下という国体があるし、日本の仏教は・・・」
ここで困ったのが、『小乗佛教』『大乗佛教』『神仏習合』を英語で彼に説明があまり出来ませんでした。
日本に来たからにはスウェーデンへ帰国する前に、新幹線に少しだけでも乗っておきたい、広島か長崎の被爆地は必ず訪ねたいとも言っていました。
これを思い出したのは、
私を含めて日本人のアイデンティティの話。
もう随分と以前から、
「国際化」「国際人」「グローバル化」「グローバル人材」という言葉に引っ切り無しに遭遇します。
海外生活の経験ある方々や日本在住の異邦人方々と交流ある方々は理解に易いと思います。
英語が出来る、〇〇語が出来る、等、
まあ、これも少し必要でしょう。
けれど、これは飽くまで意思疎通コミュニケートする一つのツールや手段。
海外の方々と交流する際、ビジネス上の会話で「政治」や「宗教」「色物話」等はタブーですが、
日常生活会話のなかで、「アイデンティティー」「自分は何者か」は根本的、基本的に深層部分で極めて必要なのです。
現代の日本人に自らの帰属する社会、日本を理解している人がどれ程いるのでしょう。
歴史や文化、そこから多大に影響を受けている私達、
表層的でなく深層的にある程度は理解し、他者へ説明できる、
上手く表現する言葉は見当たらなくとも、その全体像や有り様を捉える。
私もそうならんと努めつつ、そうした人が一人でも増えて欲しいと思います。
米中覇権の未来と日本【時事所感103】
外交問題、国際政治専門のワシントンD.C.在住金融アナリストの伊藤貫氏の話から御紹介します。
米中覇権争いのなかで、
これから日本に起こりうる予測は主に三つ。
①「中国が東アジア地域覇権を掌握する」
・中国が経済力を使い、軍備増強を加速させる。東アジア地域における米中の影響力が均衡から逆転。米国の国家予算や莫大な軍事費の関係等諸々から、少しずつ次第に米国が東アジア地域覇権から撤退して、地域的覇権については中国へシフトしていく。
日本は中国覇権の傘下へと吸収されざるを得なくなっていく。
②「米中協調的覇権関係」
・米国と中国の覇権関係が均衡した状況になる。
この均衡状態で米国中国双方が妥協、エスカレートする状況を休止する。米国と中国双方から日本は翻弄される。
国際政治学では屡々「コンドミニアム」と表現される。
③「中国共産党の失墜と民衆暴動、軍部クーデター」
・中国共産党の信頼性クレディビリティが低下傾向にあるなか、民衆の暴動が発生。オーソリティやクレディビリティは高い中国軍部が民衆暴動の発生と伴に軍部蜂起、クーデターを起こす可能性は拭えない。
この3つを伊藤氏は指摘、①と②が現状から可能性が高いと指摘しています。
これについて、私的に解説や補足をしましょう。
①については、
補足として、
第2次世界大戦時の米国と中国の会談のなかで、
「日本には自主防衛力を永久に持たせない」という合意がありました。
米国中国双方にとって短期的ではない長期的視点からして得策です。私が米国や中国の指導者ならそうするでしょう。
もう一つ補足すると、
米国の事情です。米国は世界一の債務国、借金大国です。国内政務に関する予算で福祉医療費等は日本の報道で御存知の方々もいるでしょう。
ところが一方で国家予算を圧迫しているのが軍事開発や維持費等の軍事関係費です。
これを維持するために米国は米国国債を多額に日本に購入してもらっているのも御存知でしょう。
米国は正式な軍事同盟を世界各地域、約60~70カ国と締結。米国軍事関連設備や基地は世界中に200拠点程有しています。
米国の軍事関連予算は国家予算を圧迫して、米国国債を頼りに維持しているのが現状です。
経済力と急激な軍備増強の中国に対抗するために、
米国一国では太刀打ちし難いために、
欧州諸国やインド、オーストラリア、日本と連携し、
中国包囲網を設けている理由はこれもあります。
東アジア地域の覇権国が中国にシフトしていくのは現実的な話になりつつあります。
②について、前回の多事争論時事所感でお話ししたポーランドの歴史です。
ロシアとドイツが直接的紛争に至る前に、地政学的緩衝地帯となるポーランドを、互いに国益に沿うように扱う。
国際社会上、大義名分を全面に押しだしつつ、
実際にはロシアドイツ両国の暗黙の了解で、
「ポーランドを煮るなり焼くなりするのは俺達だ」
といった形です。
これが現実味ある未来図で、可能性は高いでしょう。
③中国共産党の信頼性クレディビリティや正当性・合法性レジティマシーが低下して、共産党の制度的、機関的安定が揺らいでいるのは昨今指摘されている通りに確かでしょう。
中国温家宝一族の27億ドル以上の不正蓄財報道等がよい例でしょう。
ウイグル族弾圧虐殺や地方自治体の不正等挙げればいとま無い。
天安門事件や香港暴動を御存知なら、これも可能性はあるでしょう。
これら三つのなかで、恐ろしいのが②。
これから5年~15年かけて徐々に進行していくとき、
私を含め日本人はどうするのでしょう。







