1035 :「ビッグバンドPA」との向き合い方と小ツール | ShinさんのPA工作室 (Shin's PA workshop)

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2024年1月追記

 

始めに演奏あり

PA(SR)は手段、PA卓を前にした時点で「表現者」。

演奏無視の音楽SRなんて邪魔モノ、ありえません、

理想はPA(SR)を使わない演奏だ、これは誰が何と言おうと普遍的なテーマだ。


フェーダーから手をはなしてビッグバンドのPA(SR)などできません、「拡声器屋さん」の仕事ではない。

Shinさんって、音響工作屋みたいな人だと思われているかも知れません。

実はビッグバンド(JAZZ)PAに携わって、おかげさまで20年目を迎えました。


ShinさんのPA工作室

今日はこの「ビッグバンドPA」との向き合い方(私見)と小ツールをご紹介したいと思います。

ビッグバンドPAについては現在でも賛否激論がある事を承知しています。

 

良い音響機材なら良いPAが出来る・・・と傲慢な勘違いの末に、演奏者の表現意図にそぐわないPAがあまりにも横行してきた結果、「ビッグバンドPAは邪道」とさえ言わせてしまうのだと私は思います。

 

PAの確立していない時代は生音だけで勝負していたわけですので、時代を経た今日当然の議論だと認識しています。

しかし表現が多様化、現代化する過程でラテンをはじめロック、フュージョンとあらゆる音楽ジャンルを飲み込み、スイングであった曲すら、アレンジも時代と共に大きく変貌しています。
 

さらに、Dsを除くリズムセクションでは生ピアノを使わない限りすべて高出力な楽器AMPが鳴り響く環境、「PA好まざる」としてもそのような環境の中、もはや音楽表現としてPA(SR)抜きには成り立ちにくい演奏スタイルとなり、特に野外ステージではそれが一層顕著となります。

 

練習中の生音(演奏音)には「ゾクッ」とするものがあります。

楽器間のハモリやアンサンブルが決定的に違う・・・空間でのソレと、卓でつくり出されたソレはまったく別物。・・・・「位相差が云々」以前の問題である。

 

トウッティの煌びやかさも、迫力もSAXソリの色気も楽器間のハモリやユニゾンも生音(演奏音)を超えるものはない、それを踏まえてのPA(SR)が自分のやりかたです。

 

この「ゾクッ」をお客様に届け、演奏者までも含めて感動を共有出来ることこそがビッグバンドPAワザのカナメだと言ってよいでしょう。

 

また、PAオペレータは最終的な出音の決定権を持っており、本人が好むと好まざるとに関わらずそれは間違いなく演奏の表現者となっている。

しかし本人はそれに気が付iいていないとすれば迷惑PA。

 

たとえば弱音楽器がソロを取っている時、伴奏側にまわっている楽器の音量が大きく、ソロ楽器の音が聞こえないとすれば、それは演奏者や編曲者の意図とは異なってしまうわけです。

 

そこで登場するのがコレである

「オレはPAだから演奏には手を出さない・・・」と言わんばかりに、バンド前つらに57、58などのダイナミックマイク」を数本。

「さあこれでJAZZでも何でもやれ!」だと?・・・マジですか ビックリ・・・

 

出来るわけがないでしょう!

まさに役割放棄、音楽放棄のような無責任なPAをされる方を見かけるがこれでは誰の感動も満足も得られない、文化・芸術とも程遠い迷惑PAの典型です、いったいどんな哲学・美意識、そしてどんな専門スキル・知識を以ってそういう行為に及ぶのか全く理解不能です。

 

良いビッグバンドPAそれは演奏家と音響家の相互理解と協力関係が決め手、音響側の身勝手演奏側からの無理難題一理あるのです。

足して2で割るのが正解というわけでもなく・・・・

やはりお互いの本音をぶつけ合って交流させることで、より満足出来るビッグバンドPAへと進化していくのだと思います。

PA(SR)としての難易度はダントツに高いがその分、可能性とやりがいは無限の対象だと信じております。

(ビッグバンドの楽器構成)

ホーンセクション(Tp 4)(Tb 4)(Sax 5)=13

リズムセクション(Gt、Bs、Pf、Ds 各々 1)=4 

計17楽器の構成が一応基本パターンとされるが各セクションの楽器増減や追加楽器、持ち替え楽器は当然あります)

 

私見と小ツール

演奏者やコンサートマスターの普遍的な美学をいかに自分のものにするか、決して身勝手な「電気音」や表現意図から外れた出音にさせない事を肝に銘じ、仕込みとオペレートを行なっています。

 

「PAは仕込み8割、オペ2割」と云われることがありますが、少なくともそんな「セオリー」ではビッグバンドPAは絶対に成り立たちません、そういうPAさんを選択した場合、結果は火を見るより明らかである事を断言します。

 

「音響機器は道具」「オペレーションは表現支援、魂をこめるというのがShinの考え方です。

 

使用卓は最低24ch(アナログ入力)は必要ですのでこのジャンルでは20ch超えのフェーダーと各ツマミの一括した視認性がとても重要です。

(ある日の卓)

ShinさんのPA工作室

Shinは左からTp、Tb、SAX、pf、Ds としている、この例ではBs、Gtは入れていない。

今後デジ卓に乗換えた場合、フェーダー数が減り、きわめて使いづらいことになることが容易に想像され躊躇しています。

この点、諸兄のご意見を頂戴できれば幸いです。

 

(演奏者の想い)マイク本数は1本か2本にならないの?、それでも返し(演奏モニター)には音がほしいけど・・・

 

(現実) そんな都合のいい話は無理・不可能よ、じゃフロントをやめて返しだけにする?(PA側の言い分)・・・・・

 

でもちょっと待てよ・・・何か次元を変えた大きなテーマとして取り組む価値はある、とShinさんマジメに考えています。

 

この世界は演奏者との信頼関係など人間関係すら音に現れる恐ろしいモノです。

ましてや、PA側はその演奏をしっかり預かっていますので、本番の実感は演奏者と非常に近いモノがあります、ただしあくまでも「冷静」です。

 

このブログの「プロフィール」にある私の写真は建物背にしたビッグバンドの野外ライブPAブースの一部です。

 

(注意している点)

・まず演奏音ありき(生アコースティック音のみとは限らない)

 

・バンドメンバーとの人間関係が最も大切、飲み会・打ち上げは必ず出席する、それは音に現れるから不思議なのです。

 

・マスターフェーダー位置から手を離さない。

 

・演奏者各々の姿と各フェーダーが1対1で繋がって見えるような訓練。

 

・場立ちソロ(スタンドプレイ)時、マイクと楽器の関係を演奏者にグースネック操作をお願いし、フェーダーフォローする。

 

・SAXセクションの持ち替え(フルート、クラリネットなど)に対して曲の流れに適切なフェーダーフォローする。

 

・ボーカル曲の扱い⇒ボーカルをUPするのではなく楽器側を下げる、これはバンド側でも気を使ってほしいところ。

 

・トロンボーンは決して埋もれさせない。

 

・ピアノはマイクでもラインでも、フューチャーやソロでない限り低めのレベルでバンドに溶け込ませる、これは、ギターやベースにも言える。

 

・ソロはあまり離れた立ち位置では好ましい演奏とならない。

 

・ミュートした管(Tp、Tb)の扱い・・・・(何の為のミュートか・・・画一的ではない!)

 

Vo曲はそれを上げるのではなくバンド側を下げる

・フェーダーを上げるのは勇気などいらない「下げる勇気を持て・・・」

といってもch数が多すぎなのでShinさんは、「連結バーで一気に?・・・・」そんなことしませんよ^^;

①マスターをやや下げ、Voをユニティよりやや上げ、曲の終了と同時に元に戻す。 この操作ならスムーズに違和感のないVo曲演奏が完成する。

                                

③曲中、急激なフェーダー操作は行わない などなど

 

さてさて それらをスムーズに行うためにこんな仕掛けが・・・・

 

【1.グースネックシャフトと狭脚スタンド】

ホーンセクションのスタンドはすべて259のブームを255のものに取替え、グースネックシャフトを取り付けたもの。

それは、足元の密集したホーンセクションでは脚の開きも最小限で済ませたいからです

 

これは金管(Tp、Tb)用グースネックのセットです。

(マイクは57です、これならスリムなので顔が隠れることもなく絵づらも良い)
ShinさんのいたずらPA工作室

ミニの狭脚スタンド使用ながらふんばりも良く、問題なく楽器位置まで届きます。

57などでは野外ではウィンドスクリーンが必須となります。

 

①SAXセクションの場立ち(スタンドプレイ)では演奏者にグースネックのマイクを自分の楽器のベルに向けてもらっています(写真の物よりやや長いグースネック使用)

 

②Tbは演奏中、スライドが当たらないようなスタンド位置、ブームアームには気を使います。

 

③特にブラスセクションは狭い場所に各楽器と楽器スタンド・ミュート・譜面台・マイクスタンド・・・と林立していますので、休憩中といえどPA屋はその中に入ってマイクまわりを触ることは避けたい。
ShinさんのPA工作室 ホーンセクション内の林立・密集状態

 

ウエストポーチなどしたまま入ると譜面台や楽器スタンドごとひっくり返します、演奏者本人に頼んだほうが安全確実。

(だから普段からの信頼関係をしっかりさせます)

 

【2.集合ケーブル】

単独ケーブル(4E6S)を数本スパイラルチューブでまとめた「集合ケーブル」を作って使用しています。

トランペットセクション用  トロンボンセクション用  SAXセクション用ドラムス用 を用意し、各管用は1ch分余分にケーブルを入れ、楽器本数の変化に対応させます。


 

◎仕込み・撤収の素早さが決定的に違います。 

 

(下写真)これはドラムス用です。私の場合、ビッグバンドではスネアー、タムには個々にマイクをあてる事はありません。

ShinさんのいたずらPA工作室  

スパイラルチューブの末端は「熱収縮チューブ」で処理

1mほどの余長でマルチのジャンクションBOXへ

 


ShinさんのいたずらPA工作室

こちら側は3mほどの余長でマイクにらくらく接続

 

経験的に、ビッグバンドのドラムスではマイク本数が少ないほど良くまとまるため、ほぼTOPの2本だけで収音し、キック(バスドラム)のマイクはよほど理由がある場合にだけ入れ、レベルを落として使う。

 

ハイハットにマイクをあてる場合はほぼホーンセクションへの返し(モニター)用ですが、これもTOPの2本でほとんどまかなえる。



スネア、タム複数)、バスドラム(Kick)にマイクをあてた場合でも最終的にはTOP2本のまとまりの良さに行き着くはずです

 

野外現場が多いので湿度によるファンタムのリークトラブル(「ブツブツブツ・バリバリバリ・キュ~~ン」)を避けるためC-451などを持ち出す事はなく、TOPは電池式のECM-23Fを好んで使っています。

 

(30年以上経過し、エレクトレット帯電電荷の減少により枯れて来ていますので、感度はやや落ちてきましたが刺激的な超高域がなくなり、今がいちばんの食べ頃!他のマイクで代替できないほど実にイイ音になっています)・・・現在、後継のECM-23FⅡを数本枯れさせているところです(高熱で一気に枯らすのは良くありません)

電池式のAKG C-1000S、RODE NT-3、などへの切り替えは今のところ考えられません。


 

(集合ケーブルの図)

ShinさんのいたずらPA工作室

これはSAXセクション用集合ケーブルの構造です
ShinさんのPA工作室

 

同様にTpセクション用、Tbセクション用、Ds用があります。


 

このような下準備が有ると無いとでは、仕込みもバラシ・撤収も作業能率は雲泥の差となります。

 

第一、足元スッキリ配線がクイックに完成してしまい、絵づらも綺麗です。

 

Shinさんはバンドメンバーとして同一行動をとる必要上、クイックな仕込みが要求されます。しかしこの「マイクまわり」の仕掛けがあるおかげで「搬入」から「音出し」までの最短時間は余程のトラブルがない限り、たった1人でやるビッグバンドPAの仕込みとしてはかなり短い「1時間半」をキープさせています。

 

「やる!」と決めたら「やる」

 

(追記)

ビッグバンド以外の音楽演奏などが同一イベントに加わる場合は「卓」を分け、ビッグバンドの音響セッティングにはいっさい手をつけない方法でイベントをまかないます。
 

 

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                             管理人(Shin) 

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ある日の卓、