1024 :マイクロホン技術の名著について | ShinさんのPA工作室 (Shin's PA workshop)

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2024年1月追記

 

長らく手元を離れていたマイクロホンのバイブル書を最近オークションを通じて再び手にすることが出来た。

 

20数年ぶりに同一の本を入手出来た感激は筆舌に尽くしがたい。しかしあまりにも綺麗な体裁に、戸惑いも感じつつ・・・・

 

大昔、よく持ち歩いて勉強に使ったこの本、何かをきっかけに私の元から消えてしまった。

悔しくて探し回るもはるか昔に「絶版!」いや今回は本当にうれしいです。

 

技術書とはその時代の産業活性度のバロメータである。

産業の活性度合いと出版物の質・量とは車の両輪、出版が止まれば「産業」も止まって行く。

 

残念ながら日本のマイクロホン技術開発は1970年代以降カラオケ文化を経験するも東芝・アイワ・SONYという名門3社の相次ぐ事業撤退(縮小)によりマイクロホン開発は細々たるままデジタル時代に突入したと理解している。

円高・工場の東南アジア移転により国内は非採算事業となり、反対に従来高嶺の花だった海外製品の大量流入・一般化も大きく原因している。

 

このころの国産マイクはSONYのC-37、38やC-500あたりが世界では及第点。

他に国際的に通用するものはほぼなく、EVに似たデザインで新参入のATも「行きがかり上使われたことがある」程度。

 

日本製マイクは「音はとれても音楽」はとれない」というのが海外音楽家・技術者共通の評価であった、それでは今の国産マイクはどうだろう?

 

残るのは「サンケン」「プリモ」「フォステクス(フォスター)」という老舗そして「オーディオデクニカ(AT)」と、細々たるSONYであるが、AT社あたりのほんの限られた機種、限られた音源でしか国際的には通用しないであろう。

 

主たる原因はBTS規格(すでに廃止)を頂点とする「物理特性優先」という日本人特有のこだわりが災いし、音楽表現とは関係ない要素に重点をおいたマイクを追求していた事が決定的である。

 

 

それでも国産マイクはリボン型では構造上何とかなるものの、他人の声に聞こえるダイナミック型、エネルギー感のない繊細なコンデンサ型、超高域のヒステリックなECMなど、変な「高級」マイクが作られてきた歴史がある。

 

これは国民性と音楽文化の違いが大きく原因してきたと理解している。

(それでも時々突然変異的に優秀なマイクが出現したりする歴史でもあった)

 

また、マイクの開発者も営業側も音楽的センスと経験が最終的な決め手であるが国産メーカーではこれが最も不足していた。

 

4年前、所属するビッグバンドのPA相棒がAT社製新型ダイナミックマイクを6本買い込み、ブラスセクションに入れたことがある。

SM57と入れ替え使用し、野外ステージが進むなか「SAXセクションとのアンサンブルがとれないクセ音」「吹かれがひどい」「楽器の音色が変わってしまった」、次のステージでは普段通りSM57に戻してライブを無事終了させた。まったくの別モノ感覚を経験した。

2006年の時点でもそんな具合、「こんなマイク使えるわけがない」、音楽ヌキで設計されたマイクの典型だ。

 

 

過去・現在ともに、日本製マイクは放送および一部の機種、一部の用途以外、国内音響技術者でさえ選択肢に入ることはない。

そうこうしているうちに今ではとりたてて、とりえもなければ一挙に中国製「ベリンガー」の時代となってしまっている。

 

しかし一方では決して大きくはないが高品位ECMを製造・販売し、国内・海外有名メーカーを相手にユニットのOEM供給をしている元気な専業メーカーが存在し、そんな挑戦者たちが頑張っておられる事も事実、何と素敵な事か・・・

 

このような歴史を背負ってきた手さぐりの専門書がこの2つの書である

 

 

マイクロホン技術を学ぶ上での技術専門書は日本ではめったにないが、次の2冊はマイクロホン技術のバイブル書として専門筋に有名です。

(いずれも絶版となってしまっている)

 

この2つの「マイクロホンハンドブック」は、やはりShinさんの宝物なのです。


 

1.「マイクロホンハンドブック 第2版」:(日本放送協会編)1973年 

この本は、NHKの放送現場と技研を発信源とし、BTS規格を中心技術に据えた内容ではあるが、日本でマイク技術を学ぶ上で切っても切れない歴史的な名著といえる。 

ShinさんのいたずらPA工作室    ShinさんのいたずらPA工作室           

時代を反映し、TOP記事の機種は東芝Bベロ=BTS RB-1(OB-1161)

 


                     
ShinさんのいたずらPA工作室

Shinさん所有のBベロ現物です(1974年頃NHK仙台放送局放出)

比較的最近リボンを張り替えた完動品、これはどんなにお金を積まれても手離せない。

半世紀前のマイクがどれだけ心を込めて真剣に作られているか細部まで良くご覧ください)

(S/No.632・・・昭和30年代製造、東京オリンピック直前と推察)

 

 

 

途中ページにSM-58の記述もあり、まだ1ドルが360円だった頃、次のような、その時代ズレ感覚が面白い。  (1本75,000円以上の価格だった)

 

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  「SHURE SM-58形 ムービングコイルマイクロホン」

 

4.使用上の注意

映像的にはユニークなデザインが大きさを感じさせるため、使用が限定され、日本人特に女性シンガーにはまったく不向きである。

外人タレントの場合には体格的に違和感は少ない。

手持ちによる摺動雑音も少なく、風妨効果もかなりある。

低音域降下がややはげしいので、スピーチ収音の際はできるだけ口もと近くに近接して収音する必要がある。  


(日本放送協会 マイクロホンハンドブック 第2版 58頁より)

 

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2.「実用マイクロホンハンドブック」:(CQ出版社刊)1967年初版

こちらの方は技術的に発展途上であるがゆえの未熟さ・試行錯誤の片鱗が見え、むしろそれは「トランスデューサー」としてのマイクロホン技術の原点。

「欧米に追いつけ、追い越せ」の必死さや技術者たちの執念が伝わってきてうれしい。

決してアカデミックな内容ではないが・・・・・

ハングリーだけど未来に対する希望でみんなの目が輝いている時代。

中島平太郎、若林俊介、杉本哲といったトップ技術者達の、もう触れることの出来ないマイクロホンの原点技術が詰め込まれている。

 

◎このあたりは模造に明け暮れする現在の中国製マイクにもっとも不足している部分である。
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「実用マイクロホンハンドブック」


 

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錚々たる出筆者の共著。

 

 

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若林駿介先生の若き日の姿も


 

どちらの「マイクロホンハンドブック」も、2冊ともマイクロホン技術のバイブルであることは今後も間違いない。


 


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3.「マイクロホンハンドブック」:ノルベルト・パヴェラ著

(ミュージックトレード社刊)1982年 

 

実はもう1つ「マイクロホンハンドブック」がある、かなり薄い本ではある。

これは(AKG監修の為、メーカー色が非常に強く、すでに製造中止したマイクのオンパレード。

現代の別メーカーマイクのアレンジには頭の中で翻訳が必要、しかし楽器の音響特性を知るには大変優れた内容である。

 

 

 

4.「マイクの本 前編」:(川井敏生さん著)2007年刊、CD付。をご存知か?

 

2010年現在手に入る隠れた名著として知る人ぞ知るのがこれである。
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これは著者である川井さん入魂の自費出版書、最近見かけない程完成度の高い出版物です。現在「後編」を出筆されているようです、出版が待たれます。

 

こちらは入手先URLです http://www.micnophone.com

 

 

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