毎年この季節には、高校3年生の夏のことを思い出します。
その日の朝、いつもなら大宮駅で高崎線を降りたら、そのまま改札を出て学校に向かうはずのところを、私は改札を出ることなく別の電車に乗り換えました。
待ち合わせは一番後ろ、南に向かうその電車の一番北寄りの車両。同じ部活の同期の面々と合流して、そのまま私は江ノ島の海へと向かったのです。
そう、その日、私は生まれて初めて学校をサボって、仲間と海に出かけました。
最初に言い出したのは誰だったんだろう?
なんとなく見当はつくけど、正確には思い出せません。
もう水泳部も引退だから、高校生活最後の夏の思い出に。
そんなことだった気がする。
往きの電車。通学や通勤のために、ちゃんとした格好をしている人たちで混雑する電車の中、明らかに浮いている私たち。
今の私が当時の私たちを見たら、ちょっと迷惑そうな顔をするかもしれない。
きっと喧しくて、キラキラと楽しそうにしていたに違いない。
でも、正直、その日のことはもうあまり憶えていません。
どんな海だったのか
花火はどんな色だったのか
気になる女の子とは話せたのか
楽しかったのか
その代わりによく憶えているのは、前日の夜のこと。
私は律儀に(?)、母に言ったんです。
明日は学校に行かないで、海に行くって。
今なら、黙って行けばいいのにって思うけど、あの時は何故だか母には嘘をつきたくなかった。
たった一人で、昼夜と働いて高校に行かせてくれている母に嘘をついて、学校を休むわけにはいかない、そんな風に思ったのかもしれません。
でも、母は許しませんでした。
当日の朝、「いってきます」と言った私に、母は「いってらっしゃい」とは言わなかった気がする。
それでも私は海に行きました。
母は引き止めませんでした。
あの前日の夜、学校をサボると言い出した息子を前に、母はどんなことを思っていたんだろう。
許さなくても自らの意志で海へ向かった息子のことを、どう思ったんだろう。
夜、帰宅した時に、母からどうこう言われた記憶はありません。
本当は都合の悪い記憶をすっかり薄れているだけで、小言の一つもあったのかもしれません。
今度は自分が子を持つ親となりました。
いつの日か、娘たちも学校をサボると言い出すかもしれない。
学校をサボるわけではなくても、あの時の私と同じように、親が当たり前だと思っている行為から、半歩、一歩と踏み出すことがあるかもしれません。
いや、きっとそういう日はくるでしょう。
もちろん、それは海に行くためでは無いかもしれないけど。
そのとき、私はどう思うんだろうって想像するんです。
あの時の母のように、許しはしないけど、黙って送り出すのか。
叱り飛ばして、無理やり引き止めるのか。
それとも・・・・・・。
どっちがいいとか、どっちで在りたいとか、そういうことではないのだけれど、成長して、私から離れていき、私のモノサシと異なる自分のモノサシで行動するようになる娘たちを信じてあげられる親で在りたいなと、今は思います。
色々なことがあった高校3年。
でも、この季節に思い出すのは、海と母のこと。
たまには実家にも顔を出さないとな。
