「ポッサム」と聞けば、ポッサムキムチを思い出す。素材を包み込んで漬けた、さほど辛くない、キムチの中でも極上のキムチである(キムチの王様とも呼ばれる)。ポッサムには、「包む」という意味がある。

 

 いま、チョンイル主演のドラマ『ポッサム~愛と運命を盗んだ男~』が放映されている。光海君の時代の物語で、正史にそって国王の寵愛を受けた女官・金ゲシも登場する。

 タイトルのポッサムとは、寡婦を布で包んで誘拐し、再婚の夢を叶える、という意味という。人を誘拐するため、布で「包む」。その包むがポッサムというから、言葉本来の意味にも通じる。

 

 朝鮮王朝時代は、若くして寡婦になっても、法的に再婚が禁じられていた。つらいことであろう。この法を変えるまでには、長い歳月を要した。朝鮮王朝末期、甲午農民戦争で、農民軍(東学軍ともいう)が政府と全羅北道・全州で和約を結ぶ。その条文に、寡婦の再婚を謳っている。しかし、農民軍が公州の戦いで、官軍(政府軍と日本軍)に敗れたため、この条文が吹っ飛んでしまった。

 

 ドラマ『ポッサム』は、フィクションながらよくできている。領議政の息子に嫁いだ翁主(オンジュ、側室の子)ファインは寡婦となっていたようで、チョンイル演じる主人公バウは、ポッサムの相手を間違って誘拐してしまう。ここから、物語は大きく動く。

 バウは、元は両班の出。王室を混乱させた罪で、祖父を含む家族は領議政の命により処刑されていた。それがために、バウは「俺は既に死んだ男」と周囲にもらしていた。

 

 意外だったのが、王を演じた俳優キムテウである。彼は、秀吉の朝鮮侵略を描いたドラマ『チンビロク』で宣祖を演じた。宣祖は秀吉軍が都に迫ると平壌、さらに中国国境近くの義州に逃れた。側室の子である光海君は平壌に残って、秀吉軍と戦う。

 国を捨てたとして宣祖は民衆の怒りを買い、戦った光海君の人気が上がる。これがトラウマとなって、宣祖は、光海君を疎んじるようになる。このような親子関係を、キムテウは両方の立場にたって演じている。

 

 宣祖を演じたキムテウが、まさか光海君に扮しているとは意外であった。ドラマ『チンビロク』の宣祖役のキムテウが重なって見えるようで、違和感があった。

 ドラマ『ポッサム』はタイトルにしろ、ストーリにしろ、興味深かった。