児童虐待:「警察と児童相談所の全件共有」「親権停止」の前に大切なこと | 『現場に飛び込み、声なき声を聴く!』 しげとく和彦のブログ

『現場に飛び込み、声なき声を聴く!』 しげとく和彦のブログ

S45年生れ。衆議院議員候補(愛知12区岡崎・西尾)。元総務省職員。H16年新潟県中越地震で崖崩れ現場からの2歳男児救出に従事。22年愛知県知事選(次点)。H24年に初当選。H26年、H29年無所属で3選。

「おねがいゆるしてください」と書き残した5歳児の虐待死の悲劇を繰り返さないため、先日の超党派「ママパパ議連」で緊急提言を議論しました。


 
メディアの論調は、とにかく警察の介入が必要だから「警察と児相の全件共有を徹底せよ」とか、親子を引き離すために「親権停止すべきだ」と走りがちです。
しかし単純明快な話には落とし穴もあります。ここは今一度、冷静に現場の本質を捉えて取組むべきと考えます。
 
そこで議連では、虐待された児童を診てきた小児科医であり、海外事例にも精通されているNPO法人チャイルドファーストジャパン理事長の山田不二子さんから、事件の検証をプレゼンしていただきました。
 
【以下、プレゼンの(重徳の勝手な)要約】
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①なぜ児相は児童福祉法28条(家裁の承認を得ての親権者の意に反する施設入所)を申し立てなかったのか?警察介入や親権停止の前に、まずは28条適用の場面であるはず。
・2年前改正された児童福祉法2条「児童の最善の利益を優先」の大原則よりも、保護者との関係性を優先させたのではないか。
⇒児相にチャイルド・ファースト・ドクトリンを徹底させるべき。
・高松地検が父親を2度にわたり不起訴処分としたことを勘案し、同法28条の申立てが家裁で却下されることをおそれたのではないか。
⇒児相や関係者は、刑事訴訟と家事審判の裁判のあり方の違いを理解すべき。
・昨年8月に結愛ちゃんが「パパにやられた」と語ったことを信じなかったのではないか。
⇒児相のアセスメント技術を向上させるべき。
 
②なぜ児相(香川→東京品川)のケース移管がうまくいかなかったのか?
・遠方への転居では、支援者が全取っ替えとなり、リスクが急激に高まることを知らなかったのではないか。
・アセスメント結果(児相の危機感、虐待の重症度、被害児の心理、加害者の病理、非加害親が子供を守れるか(家族機能))を適切に伝えていなかったのではないか。
・品川児相側が「通告」と捉えなかったため、48時間以内に安否確認(目視確認、出頭要求、立入調査、臨検捜索、警察に援助要請)しなかったのではないか。
 
③警察と児相との全件共有の前にやるべきこと(←共有さえすればうまく行くというものではない)
・通告窓口を一元化(子ども虐待ホットライン)
⇒通告者が、通告先を警察か児相か、判断を迷うことのないようにする。窓口で事案に応じ、児相・警察・市役所に振り分け、各機関で円滑に対応できる体制にすべき。
・児相の機能分化(児童を保護する部署と、家族支援の部署に分化)
⇒子どもを親から引き離して保護する職員が、同時に、親との信頼関係をもって家族支援するのは極めて難しい。2つの機能は分化すべき。
・警察に、DVストーカー対策とは別に、子ども虐待専門の部署を設置し、児相と対等の連携関係を構築すべき。
⇒警察と児相の全件共有は、警察(生活安全部と刑事部)と児相が、対等に連携できることを前提とすべき。現行の組織間の意識には、「地検>警察>児相」のヒエラルキーがあり、児相は児童福祉の観点から警察に言うべきことが言えないことが少なくない。
 
④親権停止について
・親権停止の根拠は民法であり、一時保護や施設入所等の根拠は児童福祉法。
⇒民法の親権停止に一本化すべきとの意見もあるが、行政機関たる児相は、民法より児童福祉法になじみがあり使いやすいという面がある。
・親権停止は、戸籍に記録が残る。
⇒児童福祉の観点から懸念がある。そのため、親権停止は、医療受療承諾権のかかわる医療ネグレクトの場合のみとし、それ以外の場合は親権停止でなく、監護権・教育権・懲戒権を施設長等に移譲すれば事足りるケースが多い。
 
以上のとおり、児相や警察の連携強化のためには、通告窓口の一元化や、児相職員の専門性向上、警察官の家庭介入における福祉的アプローチが必要。
また、児相職員の研修充実など専門性向上のためには、児相職員への過大な負担を軽減する必要がある。人員体制を増強するだけでなく、関係機関の適切な役割分担により、市役所が対応すべき案件に児相職員が駆り出されるようなケースを解消していくべき。
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かねてより思っているのですが、日本の行政が、海外の児童福祉と警察、司法のあり方から学ぶべきことは多いです。
私が以前から取り組んできた「司法(協同)面接」も、虐待を受けた児童の二次被害(行政の事情聴取による心理的苦痛)を回避するため、事情聴取を複数の機関が別々に行うのでなく、協同で一度で行う仕組みであり、米国などで制度が定着しています。
〔2015/11/6「司法(協同)面接導入へ」〕
http://blog.livedoor.jp/shigetoku2/archives/52123296.html
〔2010/7/5「児童虐待の司法面接とは」〕
http://blog.livedoor.jp/shigetoku2/archives/51568679.html
 
虐待を受けている子どもは、世の中で最も弱い立場に置かれた存在です。
一番信頼できるはずの両親・家族から、ほかの誰の目にも触れずに、過酷な仕打ちを受けているのですから。これを放置したら、ほかの誰に頼ることができると言うのでしょう。
そんな子どもたちに、社会が温かく寄り添うための仕組みを作ってあげなければなりません。
こじれて歪んでしまった家族関係を修復するためには、一過性の制度の見直しだけでなく、関係者による日々の運用改善に取り組み続けなければなりません。