おはようございます。
いつもいいね等で創り手さん達を盛り上げてくださる読み手の皆様、
シンイの二次世界を様々な形で創造してくださる皆様、
そしていつも素敵な企画を先導してくださるりえさん、
今年も沢山沢山お世話になりました。嬉しい気持ちを抱えきれぬ程戴きました。
また来年も、みんなでシンイを楽しみながら二次創作の幸せに浸れますように
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前記事の別バージョンですが、このお話だけでも読めるようになっています。
18話の「そばにいさせて」の辺りをイメージした創作話です。^ ^
最後はコントのようになってしまいました〜。
大掃除に追われて推敲する間も無く…諸々大目に見てくださると嬉しいですε-(´∀` )
「もう一度、キスして」唇(愛情)編
『俺はそんなに遠い存在ですか』
『私・・・ここに残ってもいいかな』
互いを想えば想う程、どうしたってすれ違ってしまう。
再び毒に侵された事実を隠したウンスの想いはヨンの怒りに触れ、
ウンスを守り抜き必ずや天へ返すというヨンの想いはウンスの心に悲しい風を運んだ。
解毒剤の材料を調達するついでに少し息抜きをしようと、ウンスは武女子達が止めるも聞かず、王宮の隅にある林の中へ向かった。
しかし案の定、自由を得たのは束の間で、探しに来たチェヨンに見つかり小言を受ける。
「いつ狙われるとも限らない、しかも毒に侵されたばかりなのですよ。一体何を考えているんです」
言い訳をすれば怒られ、正直な気持ちを言えばまた怒られる。
チェヨンが案じる気持ちは痛い程に伝わるが、叱られてばかりでは癪に触る。
ウンスの胸にふと、仕返しという名の悪戯心が湧き出して、婚儀の後も身に纏ったままだった婚礼衣装の袖を振ってみせると「あのね、」と口を開いた。
「何です」
未だ不機嫌そうにウンスに視線を送る様子に構わず、ウンスは続けた。
「あのね、思ったんだけど、ここなら周りに誰もいないし・・・やり直さない?」
「何をです」
「あいつとの婚儀の時にあなたがした、あれ。だって人前であんな事されたの初めてだもの。いくら他に方法が無かったからって、あんまりじゃない?」
「・・・・」
「ここでちゃんとやり直すっていうのはどうかしら」
込み上げる笑いを飲み込むようにして、
ウンスは顎を上げてヨンに唇を向けるようにすると、瞼を閉じた。
きっとふざけているのだろう。
そう思いながらも、瞳を閉じてヨンに薄紅の唇を差し出す姿から目が離せない。
しかし、もしヨンが冗談を間に受けたらという思いもあるのか、
赤い衣の袖を握るウンスの指に、力が込められいる様子がヨンの目の端に映る。
周りに誰もいないだと?
二人で話しているうちに、警護が付いていたことをすっかり忘れてしまったのだろう。
ヨンが呆れたように短く息を吐き、周囲の木陰に視線で合図を送ると、武女子達とテマンの気配がその場から離れた。
ヨンはウンスと二人きりになったことを確認すると、再び目の前のひとを見つめる。
まったく。
心の中でそう告げると同時に手を伸ばし、細い肩を掴んで胸の中に引き寄せた。
何故、この方なのだろう。
幾度思案しても答えなど出ない。
己だけには弱音も何もかも、全てを晒して欲しいと望む一方で、
大丈夫。
と、一人で凛と立ち、強がる姿に惹かれている。
引き寄せれば腕の中に小さく収まり、力を込めれば容易く折れてしまいそうな細身ながら、その芯はしなやかに強く、広い慈悲で溢れている。
こうして抱き締めているはずのヨンの方が包み込まれている心地になる。
「・・・・」
「あはは、ごめんごめん。冗談だってば」
不意の抱擁に驚きもせず、腕の中でヨンの気も知らずに笑う人が酷く歯痒く思えて、
ふと困らせてやりたい思いが頭をもたげる。
胸元にある細い顎を指で支え持ち上げると、
ヨンはウンスに微塵の間も与えず、そこにある柔らかな薄紅に唇を重ねた。
が、直様我に返ると指を離し、顔を背ける。
突然のことに目を見張るウンスの視線を感じて、背中に回していた腕を下ろし、半歩退がる。
己のしでかした浅はかな振舞いに、ヨンは後悔の色を漂わせて口を開いた。
「・・・冗談を間に受けたなら、一体どんな顔をするのだろうと、思いまして」
謝罪の意もあって素直に気持ちを伝えると、続けて「すみません」と告げ、決まりの悪い心地で下唇を噛む。
地面に落ちている枯葉が、風に揺られた。
「ううん、謝らないで。わ、私が言い出したんだし」
ウンスがあはは、と笑ってヨンに手を振る。
涙も困惑の色も見せず、ヨンの口付けなど無かったように笑顔で振舞うウンスの様子に、
ヨンは眉を顰めると先程半歩退げた足をもとに戻し、ウンスを上から見下ろした。
「・・・何故、そのように平然とできるのです」
「え?」
「男に断りもなくこのような事をされたら、頬の一つでも叩くべきでしょう」
「だって・・・」
「それとも、あなたには俺との口付けなど、取るに足らぬものなのか」
以前耳にした、”天女の口付けが迂達赤隊長の命を呼び戻した”という信じがたい噂がヨンの頭を過ぎる。
ウンスは険しくなるヨンの様子に困ったように笑ってみせると、足元の乾いた落ち葉達に視線を落とした。
かさかさ、と落ち着かぬ様子で音をたて、地面を走るように風に運ばれてゆく。
「・・・だって・・・あなただから」
そう言って、ウンスは所在なさげに頬をくすぐる髪を押さえると、それを耳にかけながら小さな声で言葉を続けた。
「あなただから、嬉しかった」
「・・・・」
ちょっと想定外で、驚いたけどね。と言いながら照れて微笑むウンスを、
ヨンは何も言えぬままに黙って見つめた。
自身の長い髪を梳くように触るウンスの手元に視線を移す。
すると、その指先が滑るように通り過ぎた耳の端が、頬が、常ならば透き通るように白いそれらが、纏った衣とひと続きに見える程に赤く染まってゆく。
先程合わせた柔らかな薄紅からは白い息が漏れ、滑らかな頬を撫でている。
途端、ウンスの手を奪うように荒々しく鷲掴むと、足早に歩き出す。
「え、どうしたの?」と戸惑う声が背に響くが、ヨンは返事もせずに歩みを進めた。
林を抜けて開けた場所へ出るとようやく足を止め、何かの衝動を断ち切るように強く頭をひと振りし呼吸を整えてから、背後を振り返る。
「ちょっと、急にどう、したの?」
ウンスが息を切らせながらヨンに問うと、
「危険だからです」
という応えが返る。
「そりゃ私が狙われてるのは分かってるけど、だからって急に、」
「これ以上二人きりでいると危険だからです、あなたが」
「え?」
ヨンが、握り締めていた手を離す。
遠くに守衛達の歩く姿がヨンの目に、続けてウンスの目に映った。
「行きましょう。送ります」
そう告げて再び歩き出したヨンの後ろを、
「ど、どういう意味?」
と言いながら、慌ててウンスが付いてゆく。
秋風が舞い上がる。
色褪せて落ちた紅葉達がふわりとそれに乗り、二人の姿を追いかけた。
終
遊びに来てくださってありがとうございました。
どうぞ良いお年をお迎えください!
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