高校生の時、先生は私の事を「ムラサキ」と呼んでいました。
高校2年生が始まったある春の日。
兵庫県の地味な公立高校で育った私は
平和に新しいクラスになじみ、窓辺にいました。
見下ろす駐車場には、櫻が散ってふぶいていました。
そこへ、大型バイクで派手に初出勤された「先生」が
まさか今後、現国・古典の先生になろうとは思ってもおらず
窓から、あれは誰かしらとみんなのぞいていました。
「先生」は、アラサーの先生で、クラスは大人の雰囲気にそわそわし
厳しく涼やかな目元と不敵な微笑みに、なんだか気圧されて。
授業になると「先生」は厳しく、試験でもいつも腕試しをされているようで
答えがいがあり、それは良い授業でした。
夏目漱石の「こころ」1冊丸々の中から漢字も全て出すという範囲は
その当時心躍りました。
授業では昨今の若者らしく、当てられても
「分かりませ~ん」
が続くことがあります。
「先生」はよく私の事を当てられて、間違っているかもしれないけれど…と
自分の考えを伝えると、どんな時も満足そうにされてました。
「ムラサキは、欲しいものがあるの?」
本ですね、もっぱら。
「何が良いかなぁ?」
最近は英国文学です。
「指輪物語だね、今度試験で1番とったら買ってあげる」
ということで、シリーズすべて揃えて頂きました。
今考えると、贔屓っぷりによく問題にならなかったなと(笑)
授業でも、廊下でも、どこででも
ムラサキ、ムラサキと可愛がっていただきました。
何故ムラサキ?と思っていましたが、卒業の時に分かりました。
前の学校に「アカシ」が。
先生、まさかとは思いますが源氏物語からとりはったんですか?
「そう、明石と、末摘花、葵も今のところあだ名で付けてる子がいるよ」
紫って、紫の上やないですか。
「君、職員室で有名なんだよ。ムラサキを当てたら、
授業は形になるから安心してって、初日に先生方から言われたんだから。
打てば響いて、なんでも口にするから」
この先生、今日も教師のお勤めをされています。
何年も沢山の学生さんを可愛がりはった中で
色んな人が「明石」や「桐壺」が代替わりする中
今も「紫」と呼んでくれることは気恥ずかしく、嬉しく。
…因みにこの先生は、女性です(笑)
今も現役プレイボーイで女生徒からも大人気(宝塚出身。笑)
こういう先生がいらしたら、成績も授業も面白いと思う事も
多いのかもしれませんね(笑)