ほかげ 2023.11.25 船堀シネパル2 | ギンレイの映画とか

ギンレイの映画とか

 ギンレイ以外も

 ほかげは火影か灯影と書く。めったに使わない言葉、ろうそくの火の影、光は暗く影も薄い。10ワットの電球かもしれない。冒頭からそんな場面が続く。

 

 暗い中で何をしているかがほのかに見えてくる。そこは飲み屋だ。酒と肴を出し飲ませる。続けて他のこともする、女将は客をとってるのだろう。食料も酒もきっと闇の商売だろう。駅頭にそんな市場が立ち、食べるものを求める人々がやってくる。戦後に雨後の筍の如く現れたところだ。そこから次第に淘汰され整理され闇屋も廃れていった。こんな風景は戦後を語る物語にいくらでも出てきたので、まるで実態を知ってるような気さえしてくる。でも実際のところ、何も知っちゃいない。

 

 戦後の混乱の時代、闇で成り立つ商売があった。まともな商品がなければ闇に頼るしかない。ヤミとは主に軍の物流品、正規の物品は少ない。もともと自分の物でないのにたまたま自分の手の中にあるものを売りさばく。軍隊内でも戦争が終わっても、うまいこと金儲けする奴はいる。損する奴は損ばかりしている。せめて毎日の食事を摂るので精一杯だ。

 

 子どもは元気だ、カラ元気かもしれないが、腹を空かせても頼るのは自分しかいない。戦争孤児はあふれていた。彼らは自力で生きていかなければならない。そのけげんさに心打たれるが、子どもの頃からこんな生き方しかできなかったら将来どうなっていただろうか心配になった。逞しい生き方というかずるい生き方を身につけて、ろくなものにならないのではないか。それとも困難を乗り越えて立身出世しただろうか。

 

 拳銃を持った少年が去って、どこかへ行った。ここから後半第二部って感じで、カメラは外に出る。空に向かって背伸びをした気分。この頃の東京の空は広い。高いビルはないし、建物は掘っ立て小屋ばかり。これはこれでスッキリして良いかも。戦争までのあるいは戦争中のことを考えればこの頃の方がずっといい。

 

 少年がピストルを持っていることを男に知られた。男は使い道を考える。ピストルでもあればやってみたいと思ってたことを実行できる。武器は手にすると使いたくなる。争いや戦いは素手でやればいい。戦争だって武器を使わなければダメージは少ない。

 

 彼の行為は復讐であり、仲間の誰かの代わりにやったことを強調している。戦争が終わって元のところに戻ったものの状況は大きく変わった。社会が180度ひっくり返った。こんなにも見事に変わるものか、昨日までの敵国にヘイコラペコペコと頭を下げる。天皇さえあの始末だ。これから何を頼りに生きていけばいいのか。混乱もじきに終わるだろう。闇商売がなくなり落ち着けば、きっと元の木阿弥だ。

 

 リベンジを果たすことが何になるのか。誰の得にも癒しにもならない。こういう例はあったと思う。しかしむしろ苦しみは更に増すばかりだ。

 

監督 塚本晋也

出演 趣里 塚尾桜雅 河野宏紀 利重剛 大森立嗣 森山未來

2023年