自分の創造した主人公に振り回され、自身はあまりかっこよくない男が、かっこいい主人公ボブを振り回すと言うお話。作り方が凝っている。
フランソワ・メルランは人気の冒険小説家だ。まずは小説の中から始まる。007なんかおよびもつかないほどかっこよくて素敵な男、これがなんと小説家と同一人物。自分を不死身のスパイにして世界中を駆け回って、事件を解決していく。小説家は夢みたいなことを書けて、しかも自分が主人公。でも現実は、しがない物書き。
想像の中のスーパーマンは理想でしかない。小説家は妻には逃げられ、娘1人と暮らしている。小説も人気はあるものの、文学と呼べるものじゃない。彼はいま同じアパートの女学生クリスティーヌのことが気になっている。ある時、彼女が彼の本を借りてゆき、とても興味を持つ。興味といっても、彼自身にではないのだが。ここから俄然彼はがんばりだす。
何をかって? ボブをやっつけるために。徹底的にボブをかっこよくなく、みっともなくさせることによって現実の彼の株を上げようとするのだ。しかし自分の作った主人公を自分でやっつけなけりゃ、自分が浮かんでこないなんて、おかしいね。ボブのかっこよさは彼の望みだったろう。ボブのように女にもてたいとか、強くなりたいとか言う願望が彼をして、長年三文小説小説を書かせることになったのだろう。いささかフロイト的か。ジャクリーヌ・ビセットはここでも非常に魅力あふれる女性だ。小説の中でも現実でも。
ボブは彼の創造した主人公のスパイ。彼を自分にあてはめたり、クサしたり、自由自在に操る。でもそれだと小説が変になってしまう。それでも構わない、彼女の気を惹くためには小説は道具でしかない。彼女に直接アタックすればいいのに、小説を通すものだから、なかなか真意が伝わらない。このドタバタ喜劇の自己自演がおかしい、たまらなく笑わせられる。
彼女、若いから小説家の気持ちがわからないんだなあ。懸命になっている彼の心が分かった時、小説は終わり、映画も終わる。アイディアは面白いけど、ちょっとしつこいな。めでたしめでたしだったから、それでいいのかな。ベルモンドは喜劇もできる。
監督 フィリップ・ブロカ
出演 ジャン・ポール・ベルモンド ジャクリーン・ビセット ヴィットリオ・カプリオ モニーク・ターベ マリオ・ダヴィド
1974年