冒頭から快調な滑り出し。舞台とは違った映画ならではの、音楽に合わせてパッパッとカットされる画面と生き生きとした躍動感。これこそ映画ならではのものであり、有名な舞台物の映画化では、ときにはそれがマイナスに働くこともあったようだ。しかし、うまくいって当たり前、失敗しても舞台の枠からはみ出すぎたようだ、と言われる位で済んでしまう。要するにどうしても舞台との比較で見てしまうから、そういう言い方が出てしまうだろう。一番簡単なのは、舞台を遠くから見たような映画にすることだが、映画でそれをやったら実写映画になってしまう。映画はあくまでも映画、カメラが寄ったり離れたり望遠で追ったり、顔を大写ししたり、俳優の自由な動きとそれを捉えるカメラの動きが肝心だ。
ブトードウェイの舞台を目指す人がたくさんいて、歌や踊りを習い、ある程度できるようになるとオーディションを受ける。その大変さを描く。
僕の好きなアッテンボローは、どう作っただろうか。結論から先に言うと見事と言うしかない。こういう風に作れるってことは、かなりな素養があるんだろう。はたしてそれだけの人物が他にいるだろうか。まあ、いないことはないだろうけど、他の人が監督してたら、はたしてうまくできたかわからない。彼はマスを描き、かつ描き分けることが上手な人のようだ。前作の「ガンジー」にしてもそうだし、一人一人が集まって社会を形成していると言う、ごく当たり前のことが、ともすれば人の群れの中で、一人一人が埋もれてしまうか、または一人の英雄を描くので精一杯になってしまうかであろう。そこはとても難しいところで、ほとんどがこの陥穽に落ち込んでしまうわけです。この作品はそんな常套に乗らない事は言うまでもなく、はるかにそれらの困難を乗り越えている。褒めすぎかもしれないけど。
舞台に対する思い入れが私には全くないので、もちろん映画の味方をしてしまうわけだけれど、そういう贔屓目で見なくても良いものは良い。
オーディンの映画に出演するのにもオーディションがあっただろうし、なによりここに描かたような凄まじい競争に勝った強者たち自身が演じているのだから、実感のあるものにならざるを得ない。そして彼らがそれぞれの人物階層などの代表になっている。それぞれに様々な過去があり、目指すものは同じでも、それに至る道程は、それこそ皆違う。それぞれの人のそれぞれの人生が反映されていなければならないだろう。ただしそれが私にどれだけのインパクトを与えてくれるかどうかは、私自身の幅、度量が試されるようなものだ。とすると、この映画は大きすぎるようだ。それはこの映画は難解だと言うわけでは決してなく、むしろわかりやすいのために皮相的に見てしまいがちだ。外国映画を見ているとえてしてこういう感想を持つことが多いけれど、ほとんどの場合、そのまま通り過ぎてしまうことが多い。なんてもんじゃなくて、そればっかりだったね。でも少しは自分自身及び映画を通して学んできた諸々の事柄から類推することができる。これはこと映画にかかわらず、他の表現方法の全てについても全く同様のことが言えるのであって、全て受け取る側の問題に帰するものである。でも例えば「ル・バル」の時のようにほとんど手が出ないと言うのとは違って、とっかかりの手がかりはあるし、とにかく見ていて面白いと言うのがまず第一にいいところだ。
これは言ってみれば舞台裏を表に出したような話で、そんなことさえエンターテイメントにしてしまう力技に感心した。選ばれた8人が、この先も実際に舞台に立てるという保証はない。簡単に成功を掴める世界ではない。
監督 リチャード・アッテンボロー
出演 マイケル・ブレヴィンス ヤミール・ボージェス シャロン・ブラウン グレッグ・バージ マイケル・ダグラス キャメロン・イングリッシュ トニー・フィールズ ニコール・フォッシー
1985年