死んでしまえば最愛の人 小川有里 | なほの読書記録

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I'm really glad to have met you.



60代〜90代の方々の実話をもとにした全39話の超短編小説集。


読者層をシルバー世代に向けたためなのか、文字のフォントが大きくて、行間もしっかり広くとってあるので、約300ページの割にはあっという間の読了でした。



1章「老い萌え」2章「夫婦の道すじ」は、「亭主元気で留守がいい」を卒業した世代の方々(高齢女性)による、リタイアした夫に対する不平不満が書き綴られていました。


夫が死んだ後のことを夢想したり、夫の早死を願ったり。


夫以外に向けられた愛情が満載で、男性側の立場からすると、なかなか辛辣な内容でした。


女性側からすると「そうよねぇ、わかるわかる。うちもそうなのよ」「あるある、ほんとイヤになっちゃう」「とっとと逝ってほしいわよ」といったいった感じでした。


とりわけ、「〈お昼〉というタタカイ」の話に出てくる高齢者夫婦たちの、お昼作りをめぐる攻防が面白かったです。


また、表題作の「死んでしまえば最愛の人」の話に出てくるような夫婦像はいいな、と思いました。



3章「家族哀歌」は娘や嫁、孫に利用される高齢女性の悲哀が綴られていました。



4章「今日の友は明日の友?」は、人の悪口ばかり言う困った毒友をはじめとした認知症になってしまった友人、孫自慢や他人の噂話、愚痴のオンパレードの友人など、様々な友人たちとの人付き合いにまつわるお話でした。



5章「ときは流れて」は、詐欺等で騙されてしまう高齢者など、高齢になることによる不都合や苦労・苦悩に関するお話でした。


確かに、いくつになってもやることがある生活が高齢者には良いと思います。

もし、何もすることがなくなってしまうと、少しずつ動作が鈍くなって受け答えがおかしくなってしまうのでしょうね。


ラストの「強引ぐ まいうえー」の話は、高齢者と適度な距離をとって接する嫁の話で、ほっこりしました。



1946年生まれの77歳(高齢者)になられた著者の小川さんは歳を重ねられ、ご自分の人生経験を踏まえて、「あとがきにかえて」「年齢をとる良さ」について述べられていましたが、私自身、本当にそのとおりだな、と共感しました。


「年齢(とし)をとる良さ」

どの主人公も今の日々を慈しみながら生きている。

主人公たちの生き方はたくましく、また柔軟でもある。

思いがけない出来事にいっときはうろたえても嘆き過ぎることなく現実を受け止める。

そうして、選んだ生き方を「これでいいんだよ」と自分に言い聞かせて納得し、前を向く。

年齢を取るよさとは、まさにこういうふうに自分の生き方を肯定できるようになることかもしれない。

主人公は皆、愛をたっぷり持っているが、その愛はほとんど夫以外に向けられているということだ。

表題通り、夫は死んでから最愛の人になるのだろう。

自分の心のままに生きれば、いくつになっても人生を楽しめる。

主人公の行動、考え方、割り切り方、良い意味での開き直りが皆さんの参考になれば幸いである。

《「死んでしまえば最愛の人」小川有里 著 草思社 刊より一部引用》