なほの読書記録

なほの読書記録

I'm really glad to have met you.



2023年本屋大賞第2位、ビブリオバトル大会で多くの中高生が紹介していた小説でしたので、読んでみました。


【ざっくり記したストーリー】


二子玉川にあるミカサ音楽教室に潜入して著作権の調査をする、全日本音楽著作権連盟の職員、橘
 樹が主人公の音楽小説。


12年前、チェロ教室の帰り道に誘拐されかけた橘は、そのことをめぐる一連の出来事がトラウマとなって、チェロの演奏から距離を置いていた。


しかし、上司の塩坪からミカサ音楽教室に通ってチェロの練習をするという任務を与えられて、チェロ講師の浅葉桜太郎と出会う。


浅葉が紹介してくれた小野瀬晃の『雨の日の迷路』は、メロディアスで繊細で、弦ひとつでも十分に映える曲の演奏練習を通して心地よい音を立てられるようになり、音楽の素晴らしさを実感する。


「音楽には人を癒す効能がある」

「音楽は人を救う」


浅葉に誘われて参加した二子新地のレストラン『ヴィヴァーチェ』で浅葉を囲むチェロ教室の仲間たちと交流することで、人間関係の温かみに触れる。


【感想】


テレビドラマになりそうなストーリー展開でした。


昔の青春ドラマ(「飛び出せ青春」「われら青春」「ゆうひが丘の総理大臣」等)で見たような、その回の主人公が人を騙したり裏切ったりして苦悩するが、ラストは信頼関係を取り戻すという王道的なストーリーで、展開自体はあまり新鮮味が感じられませんでした。


この手の本やドラマを読んだり見たりした経験の少ない若い世代の方におすすめです。


師弟関係と読後感が心地よい作品でした。


印象に残ったフレーズ


【三船綾香のフルート講師の言葉】

「講師と生徒のあいだには、信頼があり、絆があり、固定された関係がある。それらは決して代替のきくものではないのだと」 


【不眠外来の医師の言葉】

「安全とか安心を、この場で感じてくれているってことですよね?そういったものが保証されていなければ、自己開示はしにくいものです。自分の話をしても大丈夫なんだって、いま橘さんは思うことができている。それって、いわゆる信頼です。その無数の信頼の重なりの上に、人間関係が構築される」


「信頼を育てるのが時間なのだとしたら、壊れた信頼を修復させるのもまた時間なのではと私は思います。ただ、壊れた原因がご自身にあったのだとすれば、きちんと誠意は見せて」 

《「
ラブカは静かに弓を持つ」安壇美緒 著
集英社 刊より一部引用》


【余談】


実際に起こった音楽教室著作権裁判をモチーフにした青春小説。


一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室から使用楽曲の著作権料を徴収する考えを示し、これに反対した一般財団法人ヤマハ音楽振興会をはじめとする250の音楽教室の運営事業者側が「音楽教育を守る会」を結成し、一般社団法人日本音楽著作権協会 JASRAC)による使用料徴収に反対するための署名活動を行ったことや、JASRACの職員が原告が運営する音楽教室に勤務先を伏せたまま生徒として通い、教師による演奏の様子を法廷で証言したこと等も広く報じられ、知的財産法の専門家のみならず、一般人の注目も集めた事件となった。


2022(令和4)1024日に最高裁判所は、教師による演奏についてはJASRACの請求権を認めた一方で、生徒による演奏については請求権を認めない判決を下した。
《Wikipediaより一部引用》