中2の少年3人が企てた完全犯罪と、その真相を暴こうとする誘拐犯及び神奈川県警との緊迫した駆け引きを描いた劇場型ミステリー。
【主な登場人物】
「第一部」2010年
黒石鉄平、猿渡大樹、桐原翔吾、鮫島乃愛
以上の4人は「本町ギャングスターズ」を称する中学2年(14歳)の同級生。小3の秋に乃愛が転校してきて鉄平たちに出会う。
鮫島絵里奈(33歳):乃愛の母親
澤村恭輔(28歳):絵里奈のパートナー、元半グレグループ『無頼暗』のトップ、23歳の時に殺人未遂で懲役3年
澤村佳苗:恭輔の妹、当時1歳の息子がいた
リュージ(30歳):『Moto Shop Kunisaki』の店主、暴走族『ベロシティー川崎』の元幹部
黒石小夜子(16歳):鉄平の姉、高校1年生
猿渡光帆(16歳):大樹の姉、進学高校の1年生
「第二部」2025年 新たに登場した人物
蓮沼誠二:旧姓 鮫島乃愛の夫
蓮沼日葵(ひまわり):乃愛の娘
黒石沙織:鉄平の妻
黒石玲央(8歳)妃菜(5歳):鉄平の子
猿渡龍之介(6歳)大二郎(4歳):大樹の子
善塔(45歳):神奈川県警刑事部捜査第一課強行犯係 警部補
三枝(29歳):神奈川県警刑事部捜査第一課強行犯係 刑事、鋭い洞察力をもっている
剛田(52歳):神奈川県警 管理官
畝本:神奈川県警刑事部捜査第一課強行犯係長
堂前茂(48歳):神奈川県警鶴見警察署長
翔馬(6歳):鉄平の姉である小夜子の子供
【あらすじ】ネタバレなし
舞台は川崎市鶴見区。
第一部 2010年
幼馴染の中学2年生になった鉄平、大樹、翔吾の3人は、それぞれ何かしらの問題を抱えた複雑な家庭環境を背景に過ごしていた。
そんな3人は、小学校3年生の時に転入してきた乃愛が母親とそのパートナーの恭輔から酷い虐待を受けていることを知り、怒りに打ち震え、乃愛を救うために母親と恭輔に復讐するための計画を立てる。
だが、決行日の2010年8月2日、計画になかった想定外のことが発生したため頓挫し、無闇矢鱈に行動した結果、もののはずみで母親と恭輔を死に至らしめてしまう。
事件後、3人とも「自分が殺した。他の二人はやっていない」と主張し、法では裁かれずに無罪となる 。
第二部 2025年
しかし15年後の2025年8月、乃愛が誘拐され、犯人からは15年前の事件の犯人が名乗り出なければ、容疑者だった3人の個人情報をSNS上で公表し、最終的に乃愛も殺すと告げられる。
互いに信じて合っていた3人の友情にヒビが入り始め、疑心暗鬼となる。
そして、乃愛を誘拐した犯人は、3時間ごとに時間を区切りながら、少年たちが犯した過去のやんちゃな出来事を順々に暴露していく。
守るべきは、当時の3人で誓った固い約束なのか、それとも家庭をもった今、一番大切な自分の家族なのか。
しかし、究極の選択を迫られ、為す術もなく困惑してしまった3人を前に、15年前の殺人事件の真相が徐々に露わになっていく。
【感想】
15年前の完全犯罪と、誘拐による脅迫事件の二つが、現在進行形で交差するノンストップミステリーで、ページをめくる手が止まりませんでした。
第一部には残虐なエグい描写があり、読むのが辛い場面もありましたが、「15年前の殺人犯は誰なのか」「誘拐犯は何者なのか」を考えながら最後まで興味深く読み進めることができました。
第二部の設定には、違和感を感じました。
そもそも任意なのだから、警察を交えて協議する必要はなく、3人だけで話し合えばいいのに、警察を交えた協議となることが前提条件となっていました。
警察も交えて協議するシチュエーションにもっていくために、不自然さのない、そうせざるを得ないような説得力のある理由付けが欲しかったです。
もし実際に、本書に描かれたような殺人事件が起こった場合、3人の少年に対しては、傷害の事前共謀があったのだから、無罪ではなく、傷害致死の範囲内で共謀共同正犯が成立するのではないかと思いました。
また、大樹も自分だけが気づいていて隠していた重要なことを、もっと早く鉄平や翔吾に伝えていれば展開は違っていたのに、そうしなかったことが不自然に感じました。
このようにツッコミどころはいっぱいありましたが、あえてミスリードにハマりながら、「本当の犯人は誰なのか」「誰が何を隠しているのか」などと、へたに真犯人探しなどをしようと思わないで読む方が楽しめると思いました。
「友情を守る」とは、秘密を共有して最後まで隠し通して守ることではなく、友人が犯した罪や負うべき責任を受け止めさせることで、エンディングでは犯人が自分の犯した罪から逃げずに自分の罪に向き合うことができ、罪を償う道に進むことができたという、収まるところに収まった感じでした。
「なかりせば」〜もしあのとき違う選択をしていたら? 人生は常に選択の連続だということを再認識することができました。
「最後に選ぶのは友情か、それとも家族か?」と問われたとき、もし自分だったら「友情<家族」だなぁ、と思いました。
【印象に残ったフレーズ】
鉄平の父が鉄平に言った言葉
人間ってのはな、「幸も不幸もすべては腹次第なんだ」「腹が立つ、腹を括る、腹に落ちる──すべては腹の機嫌から始まるんだ。感情も、行動も、つまりは人生も」だからこそ、「まずは腹からだ」「腹を満たす。腹が一杯になればみんな幸せになる。そのために一番美味い飯を出す。それが俺の仕事だ」(P19〜20)
リュージが鉄平に言った言葉
「いざとなったら、引き返すのも勇気だ」「峠を攻めてるとさ、たまにあんだよ。なんか妙だなって思うときが。マシーンの不具合か、道のコンディションか、あるいは自分のメンタルの問題か。とにかく、あ、今日は違うって思う瞬間がたまにあってさ。俺がいまこうして無事に生きてるのは、その直感に従ってきたからだ。我武者羅に突っ込むだけが男じゃねえ。無謀と勇気は別物だ。引き際を間違えるな」(P89)
善塔の心の声
友情というのは、いわば焚き火みたいなものだ。手をかざせば温かいし、近づきすぎると火傷する。あるいは、部外者を寄せ付けないほどの大火として燃え上がることもある。しかし、その火は薪をくべ続けなければ、やがて消えてしまう。あの日から十五年。はたして彼らは、いまだに薪をくべるだけの余裕を携えているのか。(P202〜203)
馬渕建設工業社長の馬渕が鉄平に言った言葉
アスファルト防水の耐用年数って、どれくらいだと思う?馬渕は不意に表情を引き締め、「十五年」と呟いた。それだけの時間があれば、どこかにヒビの一つも入る。(P205)
善塔が3人に言った言葉
「人生ってのは選択の連続だ。あの日の俺は『刑事としての任務』と『息子からの連絡』を天秤にかけ、前者を選んだ。秤に載っているのがその二つであれば、俺は自分の選択が間違っていなかったと胸を張って言える」いまでもそれは変わらない。「だが、もしあの日の俺に間違いがあったとすれば、それは比べるべき二つの事象を見誤ったことだ。あのとき天秤にかけるべきは『俺でなくとも務まる刑事の任務』と『普段からめったに連絡を寄越さず、寄越したとしても基本はメールであるはずの息子からの一本の電話』だった」(P343)
乃愛がインタビューに応えたセリフ
「忘れられない言葉があるんです。小学生の頃、大切な友達の一人が教えてくれた格言です。『人間は幸も不幸も腹次第。だから、まずは腹からだ。腹が一杯になればみんな幸せになる』って。当時毎日のようにお腹を空かせていて、雑草でも花の蜜でも食べられるものはなんだって口に入れていた私は、これを聞いて『たしかにな』って思いました。これが、いまでも私の原動力です。あの頃のおかげで、いまの私があるんです」(P287〜288)
翔吾が鉄平に明かした心の中の言葉
友達との約束は守る、約束を守るのが友達。
でも、やっぱり俺は根本から間違ってた。どんな事情があれ、人として越えてはならない一線がある。もしそれを踏み越えようとしていたら、襟首を掴んででも、頬を張ってでも、死に物狂いで食い止める。その際にどれだけの軋轢が生じようと、決して関係は壊れないと信じられる。それが、本物の友達だ。(P402〜403)
鉄平の心の声
何があろうと絶対に覆せないのが血縁だとしたら、いつ何度も簡単に覆せるのが友情だ。犯人を匿っても、やむなしと判断されるほどの強い結びつきを法律に規定されているのが家族で、認められていないのが友人だ。その関係をつなぎとめているのは、あくまで本人たちの意思だけであり、根拠は薄弱。でも、だからこそ、「それでもなおつながっていたい」という思いを丹念に織り込んだ糸は、他の誰にも断ち切れやしない。(P407)
きっと、大切なのはこういう「なかりせば」を積み上げていくことなのだろう。あの日のあの一件があったからこそ、いまがあるのだと──そう思える最良の明日のために、そんな日が来ることを信じて、とにもかくにも一歩を踏み出すしかないのだ。(P408)
──人生ってのは選択の連続だ。(P409)
《『少年ABCの完璧な選択』結城真一郎 著 新潮社 刊より一部抜粋》
