不器用で ニシダ | なほの読書記録

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I'm really glad to have met you.


お笑いコンビ「ラランド」のニシダさんが小説家デビューして執筆された5編の短編集。


毎日新聞の「話題の本」のコーナーで、作家の早見和真さんが「決して熱量は高くないのに、行間に著者が世界をどうみているかが滲み出ている」「期待を上回る”結論”を用意してくれていた」と書かれており、おすすめの本として紹介されていたので興味をもち、読んでみました。

「遺影」:貧しい家庭に生まれたアミと僕とは同じタイプの人間なのに、いじめに加担して彼女の遺影を作ることになり、母親の財布からお金を盗んで遺影を作ろうとする中学生のユウシの話。

「アクアリウム」:所属する生物部の同級生、波多野を見下すことで、かろうじてプライドを保っていたが、停電で水温が下がり弱っていく魚を素手で温めてた波多野の慈悲深い行為を知り、見方が変わる高校生の話。

「焼け石」:アルバイト先のスーパー銭湯で男性用のサウナの清掃をすることになり、男性の裸を見慣れるようになってしまった女子大生の話。

「テトロドトキシン」:マッチングアプリで出会った女の子とワンナイトして、経験人数を増やすのが趣味の、生きる意義も目的も見出せないまま虫歯に繁殖した細菌が脳や臓器を冒すと知って虫歯を治さないという「消極的自死」を選ぼうとしている27歳の会社員、式田の話。

「濡れ鼠」:大学の教え子で、同じ大学の事務員として働く恋人・実里(12歳年下で20代)がバーで働き始めたが、明け方になっても帰宅していないことから浮気を疑うアラフォーの大学准教授、雨宮の話。


それぞれの章の主人公はみな不器用で、コンプレックスや自信のなさなどから何事も上手くいかず卑屈になり、日々鬱屈した気持ちや屈折した考え方と葛藤しながら生きている。

読みながら、巧みな心理描写や表現力、独特の世界観など、又吉直樹さんの著書とどことなく共通しているように感じました。


日常の何気ない日々の中で、とある出来事をきっかけにネガティブな状況から抜け出し、自分を見つめ直していくストーリーで、タイトルのとおり、不器用で生きにくさを抱える人におすすめの、普段着感覚で読める本でした。