タイトルの「おもてなし」
日本中、ふわふわと、一人歩きしています。
フランス語に言い換えるなら hospitalité でしょうか。
日本基準の「おもてなし」とは、無縁の国、フランス。
「過去最高の外国人観光客数」と先日、ニュースで伝えていました。今年も不動の世界一でしょうね。
率いるのは、同い年生まれの、マクロン大統領。最近、相次ぐ閣僚の辞任で求心力を失っているようです。
昨年の大統領選の決選投票。対決相手は、*国民戦線 "Front National" の党首、マリーヌ・ル・ペンでした。
(*6月に 国民連合 "Rassemblement National" に改名)
私が留学していた頃、この、とっても右寄りの党を率いていたのは、彼女の父親でした。
ある晩、友人宅でテレビを見ている時、画面に映し出されたのは、眼鏡を掛けた恰幅のいい男性。何やら声高に主張していたのが、ジャン=マリー・ル・ペンでした。
当時の語学力では、よく理解できず、困った顔をしていると、友人が説明してくれました。自分の腕を私の腕に並べて、
肌の色が違っても、同じ人間じゃない。
と。印象に残っているのは、いつも和かな友人が怒りを露わにしていたこと。
この南西部の都市、Toulouse(トゥールーズ)にも移民がたくさん住んでいました。フランスに暗い影を落とす移民問題。90年代後半、初めて滞在した時に肌で感じたカルチャーショックです。
周りからフランスの印象を聞かれ、ありのままに感じたことを伝えても、以前は、なかなか信じてもらえませんでした。移民大国だと日本でも知られるようになったのは、残念ながら、ここ数年のテロの影響でしょう。
アルジェリア、チュニジア、モロッコなど北アフリカからの移民。その他、セネガルなど西アフリカやベトナムなどの東南アジアからも。
二度の世界大戦で、多くの若者が命を落としたフランスでは、労働力が不足し、主に北アフリカの旧植民地から大量に移民を受け入れたそうです。
地理的に離れている国であったとしても、集団で移住してきた外国人は隣人と呼べるかと思います。そして、隣人を嫌うのが、世の常でしょう。
今朝のニュースで取り上げていたのは、リビアではなく、モロッコを経由して、最終的にヨーロッパ入りを目指す、フランス語圏の難民の姿でした。
力づくでバスに乗せられ、遠くに追いやられても「必ず国境を渡ってみせる。自分には帰る国がないから。」と言う男性。
アフリカから難民が大量にヨーロッパに押し寄せるのは、ヨーロッパが蒔いた種、と夫は言います。つまり、人身売買や天然資源を搾取した歴史。
それがアフリカ諸国の政治的混乱の一因となっている、という話を呑気に出来るのは、遠く離れた日本に住んでいるからだと思います。
ここ、大阪に暮らす外国人。割合が高いのは、韓国籍や中国籍の人たちです。職場で耳にした残念な発言の数々。大阪人の中にも例に漏れず、隣人に厳しい人がいます。
一方、私の故郷、滋賀には、90年代から、たくさんの日系南米人が移住してきました。携帯電話の普及時期とちょうど重なり、下宿先から帰省する度に、電車で聞こえてくる外国語に驚いたものです。
田舎に住む外国人。地元住民との交流は進んでいるのでしょうか。それとも、完全に住み分けられているのでしょうか。
先に書いたフランス人の友人。その後、日本に長期留学しました。そんな彼女が日本人の印象を語ってくれたことがあります。
日本人、特に、日本人女性は、本当に気遣い上手。
一般的に外国人が日本人に抱く印象だと思われます。生まれ持った性質ではなく、躾のせいなのに、と歯がゆさを感じたのが正直なところ。
「おもてなし」の一人歩きに違和感を覚えるのは、その辺りにあります。形式的、義務的になりがちだから。そして、もう一つ。「おもてなし」文化を前面に押し出しながら、ますます隣人憎悪を募らせているから。
日本を持ち上げるTV番組やネットニュースが増えて久しいですが、オリンピックやワールドカップが開催される度に気になるのが
「日本人のゴミ拾いに世界から賞賛の声」という見出し。
ゴミ拾いをするのが素晴らしいのは認めます。無言実行ならば。それを日本のメディアがこぞって取り上げるのには、首を傾げてしまいます。
海外に住む日本人が、愛国心を持つ気持ちも分かります。カルチャーショックに対する反応でしょうから。日本に住んでいながら過度の愛国心を抱く裏側には、隣人への敵意や恐怖が感じられます。
私は、他人に対しては不言実行。自分に対しては有言実行でありたいと思います。
表向きは、自己中心だと言われようとも。自分なくして他人を思いやることは出来ないと思うから。
理想は、本心からの「おもてなし」。実際には、ついつい過度の「おもてなし」。まだまだ修行の身です。
hospitality・hospitalité・おもてなし
で、良い顔をしておきながら、隣人には
hostility・hostilité・敵意、憎しみ
をむき出しにするのは、いかがなものでしょうか。
hospitality・hospitalité と hostility・hostilité
綴りは、少し似ていますが、語源は、全く別物だそうです。フランスのhospitalitéと日本のおもてなしも別物だと考えています。