本ブログは、家族心理学と家族療法の視点から、家庭や職場で起きる困りごとを読み解き、実生活で使える対応策を紹介します。カウンセラー等の支援職から当事者まで、わかりやすく誠実な解説を心がけています。
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73.老々介護の実態と心の問題 —家族心理学・家族療法の視点から、やさしく整える—
「気づけば、夫婦ふたりとも“高齢”で、介護する側もされる側も体力がない」。
これが老々介護の現実です。ここでは、家族心理学・家族療法の視点から、心のつらさを言葉にし、今日からできる整え方をやさしくまとめます。スクールカウンセラーや対人支援職の方、そして家族の悩みの只中にいるあなたにも届く内容にしました。
老々介護とは――“がんばり”だけでは支えきれない段階
老々介護は、主に高齢の配偶者やきょうだいが、同じく高齢の家族を支える形を指します。
特徴は次の3つです。
- 体力・認知・視力聴力の低下が“両側”にある
「これくらいできたはず」がズレやすい。 - “夫婦の歴史”が介護に持ち込まれやすい
長年の役割(家事・お金・決定権)が固定化しやすい。 - 社会的孤立が起きやすい
人に頼るより、家の中でなんとかしようと抱え込みがち。
心の問題:名前をつけると、少し楽になる
老々介護では、次のような感情が“同時多発”で起こりやすいです。まずは名前をつけて可視化しましょう。
- あきらめ疲れ:「どうせ今日も思い通りに進まない」
- 罪悪感:「イライラしてしまう私は冷たいのでは」
- 恥の感情:「家の事情を見せたくない、弱みを知られたくない」
- 曖昧な喪失(ambiguous loss):そこにいるのに、昔のその人ではない感触
- 役割逆転の戸惑い:親・配偶者に指示を出す自分への抵抗
- 関係の悪循環:疲れて強く言う→相手が不安・混乱→さらに疲れる
家族療法では、“誰が悪いか”よりも“何が起きているか(相互作用)”に注目します。悪循環の輪を小さくすることが、第一目標です。
ケース(架空):Aさん夫婦の場合
78歳妻Aさんが、83歳の夫Bさん(軽度認知症+足腰の弱り)を在宅で介護。
Aさんは家事全般と服薬管理を担うが、夜間のトイレ介助で睡眠が分断。日中にうたた寝してしまい、食事が遅れ、Bさんが不安定に。焦ったAさんが小言を増やす→Bさんの抵抗が強まり転倒…という悪循環に。
介入ポイント(家族心理学)
- ジェノグラム(家系図)で役割整理:Aさんが「頑張る長女役」を背負いやすい歴史に気づく
- 行動連鎖の見立て:睡眠不足→イライラ→小言→不安→徘徊増→さらに睡眠不足
- 再配置(リ・オーガナイズ):
- 夜間の福祉用具(ポータブルトイレ・手すり)とショートステイの定期利用
- 服薬・食事時間を“ゆるく固定”(完璧より「だいたい」でOK)
- Aさんの昼寝を“予定化”(罪悪感の軽減)
- 言い換え練習(リフレーミング):
- ×「何度言わせるの」→○「一緒にゆっくり確認しようね」
- ×「もうできないのね」→○「今日は手伝わせてね」
「Aさんが休むこと」が治療的介入の“最初の薬”になりました。
今日からできる7ステップ
- 体調のスクリーニング:朝晩、脈・排便・睡眠時間をメモ。崩れたらSOSの合図。
- 15分の“介護しない時間”を毎日:新聞、音楽、ベランダの空…“なにもしない”を予定に入れる。
- 言葉の力を使う:
- 「できない日があっていい」
- 「助けを呼ぶのは賢さ」
- 「私が壊れたら介護は続かない」
- 三箇所ルールで頼る:
- 家族・親戚の誰か
- 地域包括支援センター/ケアマネジャー
- かかりつけ医・訪問看護
- 制度は“全部少しずつ”使う:デイサービス、ショートステイ、訪問介護・看護、福祉用具。試して合うものを残す。
- 安全の3点セットを玄関に:緊急連絡先リスト/薬リスト/“受診バッグ”(保険証・お薬手帳・着替え)。
- 記録は“雑でよい”:転倒や夜間覚醒は日付だけ。医療やケア会議で大きな助けになります。
関係の悪循環をほどくミニワーク
- 循環質問:「あなたが疲れたとき、相手はどう振る舞う? そのとき、あなたはどう返す?」
→矢印で書くと“輪”が見えます。輪のどこを小さくできるか一緒に考える。 - 外在化:「怒り」や「物忘れ」を“敵役”として紙に描く。「今日はどっちが勝ってる?」と話題化。
- 境界の見直し:できない家事は“家の外”へ。買い物は配達、掃除はスポット家事代行へ“越境”させる。
スクールカウンセラー・対人支援職の方へ
老々介護は、ヤングケアラー予備群を生みやすい家庭背景でもあります。
学校で見えやすいサイン:遅刻・居眠り・課題未提出・イライラの増加・家の話題の回避。
面談の切り出し例
「おうちのことで手伝っていること、ある? どんな時がいちばん大変?」
「家族に相談したいこと、学校から一緒に伝えてもいい?」
連携のポイント
- 保護者面談では“非難より共通目標”:「お子さんの安心と学びの継続を一緒に守りたい」
- 地域包括支援センター・ケアマネ・保健師と三者以上で“小さな合意”を重ねる(例:週1回の見守り、福祉用具の試用)。
ケアする人のメンタルヘルス
- うつ・不安の兆し:食欲・睡眠の大幅変化、興味喪失、自責の強まり。
→兆しが続くときは、迷わず医療へ。受診は“弱さ”ではなくケア能力を守る行為です。 - 怒りの扱い方:怒りは“疲労のアラーム”。まず休む→次に助けを呼ぶ→最後にやり方を見直す。順番を守ると破綻を防げます。
よくある質問(簡潔版)
- Q. 施設を考えるのは裏切り?
A. いいえ。「安全と尊厳を確保する」ための選択肢の一つ。在宅と施設を“行き来”する発想もあり。 - Q. 兄弟姉妹と役割が不公平
A. 作業を「時間・金銭・意思決定」に分けて再配分。金銭担当も立派な役割。 - Q. 本人が“助けを拒む”
A. 「できることを奪わない」配慮を示しながら、安全と休息の必要性を具体的に提案(“試しに一週間”方式が有効)。
まとめ:あなたが楽になることが、ケアの質を上げる
老々介護は、個人の根性で乗り切る段階を越えています。家族心理学の視点は、「悪循環を見つけて、輪を小さくする」「歴史に縛られた役割をゆるめる」「外の力を混ぜる」こと。
そして最重要は、ケアラーの休息を最優先に置くことです。うまく頼る・少しずつ手放す・言葉をやさしくする――その小さな3歩が、関係をゆっくりと回復させます。
ひとりで抱えないで。
今日の15分の“介護しない時間”から、始めましょう。必要なら、文章のどこからでも一緒に具体化していきます。
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