『KAMIKAZE TAXI』

【出演】
役所広司、高橋和也、片岡礼子、内藤武敏、中上ちか、矢島健一、田口トモロヲ、根岸季衣、塩屋俊、渡辺哲、シーザー武志、ミッキー・カーティス
【監督・脚本】
原田眞人
“本物のカミカゼでした”
悪徳政治家・土門の女の世話係になったチンピラ・達男は、自分の恋人・レンコと彼女の知り合いのタマを派遣する。
しかし、SM趣味の土門にタマは顔に重症を負ってしまい、そのことを組長の亜仁丸に抗議したレンコは、無残にも殺されてしまう。
「こんな淫乱女が俺に盾突くなんてありえねえだろ!」
最愛のレンコを失った達男は激怒し、土門に復讐を誓い……土門邸の寝室に隠されているという2億円の金を盗む計画をテキヤ仲間と実行するのだった。
一旦は成功したかに見えたその計画も、すぐに亜仁丸の知るところとなり……達男は一夜にして自分の所属していた組から追われる身となってしまう。
仲間を殺され、ひとり逃亡を続ける達男は、夜明けの埼玉の山中である男と出会う。
不思議な雰囲気を持ったその男は寒竹一将というペルー育ちの日系人で‘そよかぜタクシー’の運転手だった。
達男はそのタクシーを拾って、一路伊豆へと走らせる。
「おいしい仕事でしょ?こんな客いないよ。大丈夫、金ならあっから」

当初、お互いを怪しんでいた二人だったが、長い道のりの中で次第に心を開いていった。
伊豆には達男の母親の墓があり、いつか立派な墓を建ててやるという夢を持っていた彼は、盗んだ金でそれを実現させようとしていた。
しかし、もう少しのところで亜仁丸の部下・石田に見つかってしまった達男は、所持していた拳銃で石田を射殺。
再び寒竹のタクシーで逃げるのだった。
達男は、レンコや仲間を殺した亜仁丸にその標的を変え、彼を倒すために東京へ戻る。
決死の覚悟で事務所を襲った達男だったが、亜仁丸は不在で計画は失敗。
たまたま事務所にいたタマとともに寒竹のタクシーに戻った達男は、三たび逃亡の旅に出発する。

ひとまず温泉地に落ち着いた三人は、そこで自己開発セミナーを体験し、その後で寒竹の父にまつわる忌まわしい話を聞く。
より一層絆を深めていく三人であったが、地方の組織の者に発見されてしまい、四たび逃亡の生活が始まる。
亜仁丸が都内のバーで趣味のサックスの演奏をしているとの情報を得た達男は、単身そこに乗り込んで行く。
亜仁丸を射程に捕えたその瞬間……ボディガードによって反対に射殺されてしまうのだった。
残された寒竹は、達男が残した金を貰って一度はペルーへ帰る決心をするが……自分の過去を達男の無念に重ね、遺志を継ぐことを決意。
一人で土門の邸宅へ乗り込んで行く。
ボディガードらを次々に倒し、土門の寝室に押し入った寒竹。
実は土門は、かつて自分の父親がいたカミカゼ特攻隊の元上官だった!
恐怖心をそぐためのシャブをやらなかったことで、特攻出来なかった寒竹の父を卑怯者呼ばわりする土門。
「あいつは腰抜けだった。二流の日本人から生まれた三流の日本人だ、貴様は!そんなお前に何ができる!」
そして、寒竹が隙を見せた一瞬、土門は彼の上に飛びかかった……がその時、一陣のカミカゼが土門を吹き飛ばし、彼を死に至らしめるのだった。
さらに寒竹は屋敷を訪れた亜仁丸も倒し、ふたつの復讐を遂げる……。

組に反旗を翻した若いチンピラと、彼と逃亡を共にするペルー育ちの日系人との交流を描くロードムービー。
16年前にひっそりと(?)公開され、一部から大絶賛された伝説の映画が遂にDVD化!
軸となる物語は非常にシンプル。
恋人と仲間を殺されたチンピラの逃亡&復讐劇だ。
だが、そこに枝葉となる様々なエピソードが絡み合って、時には脇道へと逸れて行き、また元の道に戻るといった感じ。
外国人労働者の悲哀、やりたい放題の悪徳政治家、セミナーの名を借りた新興宗教、そしてペルーの民族戦争の話など、重い問題を提起しつつ、本筋も進んでいく。
そして寒竹と達男の間に(途中から加わるタマとも)生まれる奇妙な絆と友情。
最初は流れから何となく達男と行動を共にしていた寒竹が、次第に達男の復讐の決意に感化されて連帯感が芽生えていく過程や、ミステリアスな寒竹の意外な過去が、物語が進むにつれて少しずつ明かされていくあたりの演出もお見事。
初めて寒竹と達男が会話を交わすところは、とにかく面白い。
寒竹は「アー、ソウデスカ」を連発するのだけれど、どこまで日本語を理解しているのか分からない。
「運転手さん、国はどこなの?」
「ペルーデス」
「ペルーかぁ。ペルーってソ連の一部だよね?」
「ア、チョト、ホーコーチガイマスネ、ハイ」
「これからさ、伊豆に向かってよ」
「イズ……アー、ソウデスカ。デモ、イマ、ココハドコデスカネ?」
このようにチグハグな会話で笑わせつつも、寒竹への謎は深まっていく。
ただの出稼ぎだけの男ではない(?)寒竹の出自が察せられるのは、達男を車に拉致したヤクザ連中を発砲して射殺した時。
血に染まった車と死体を見た寒竹は、そのままタクシーを走らせて去ったかと思いきや、逃走中の達男の脇に止まる。
「何でだよ?俺が拳銃をぶっ放すの見てただろ?」
「ア、マダ、メーターウゴイテルデス。ソレニ、オキャクサンニ、ヤトワレタダカラ」
と笑顔すら浮かべる。
その裏には、過去に彼も達男と同じような境遇にあったことがある?……と推測もでき、達男に共感を感じ始めているとも映ります。
また温泉で湯船から上がるところでは背中に無数の異常とも取れる傷跡が確認できる。
普通では有り得ない惨たらしい傷跡……ここで寒竹の何らかの過去を暗示し、それを見た達男も‘あの傷跡は尋常ではない’と疑惑を抱く。
山中で寒竹に拳銃を突きつけながら、達男は素性を問いただす。
「わざわざ俺のところに戻ってくるなんておかしいだろ?金か?俺の持ってる2億が目的か?」
「チガイマス」
「じゃあ、何なんだよ!?」
「ワタシ、ヤトワレタダカラ。ソノセキニンアルカラ」
彼はまだ本心を言わず、達男も納得したようなしないような……。
ペルー人の奥さんのことを聞かれると、
「オクサン、シンダダカラ」
そう言うと、淋しそうに歩き出す……その後ろ姿が悲しみで溢れている。
その後……達男とタマの前で寒竹は、ペルーでの身の毛もよだつ告白へと進んでいく。
「オトサンハ、テトアシヲキラレタデス。クビヲシバラレテ、ツルサレタデス」
寒竹は、住んでいたアンデスの平和な部落を、ゲリラの一団が襲撃した際の惨劇と、その復讐のために同志と部隊を作って4年間も追いかけていた事実を話すのだ。
「ゲリラノナカニハ、オンナコドモモイタデスケド、ワタシ、コロシマシタ。デモ、リーダーヲジブンデハコロセナカッタデスヨ。クヤシカッタデス。キモチクルシンダデスヨ」
やがて達男は単身、亜仁丸の元に殴り込む。
「俺が戻らなかったらさ、2億は二人で分けてくれよ」
そう寒竹とタマに言い残して……。
達男が亜仁丸の配下に射殺され、寒竹が達男の残した大金を持ってペルーに帰国する日、強風のために飛行機が欠航と発表されると、彼は思い詰めた表情で見送りのタマにこう告げる。
「コレハ、ジブンノタメデス。オトサント、タツオサンガ、カゼノカミサマ二タノンデクレタデスヨ」
寒竹は、土門邸への襲撃を決意するのだ。
実は寒竹の真の復讐は、この土門に向けられていたというのも判明する。
「元特攻隊員」を売りに議員に当選した土門は、特攻隊員たちに死ぬ勇気を与えるシャブを売って金儲けをした男だった。
そのような男が政治家としてでかい顔をしている……そんな日本に嫌気がさして父親はペルー移住を決意した……と寒竹は土門に話す。
寒竹の父親も元特攻隊員。
「貴様、あの寒竹中尉の息子か。あいつはシャブを拒んだから出撃しても何度も帰ってきやがったメメシイ男だった。情けない野郎だったよ」
寒竹の父親は‘特攻できなかった特攻隊員’というレッテルを貼られたまま、終戦を迎えていたのだ。
そしてラストでは遂に寒竹は復讐を果たして、エンディングとなる。
リアルな暴力描写も見どころのひとつだ。
特に達男たちがヤクザ連中から急襲を受けるシーンはかなり怖い。
森の中で立ちションをしているチンピラ。
そこに会長の亜仁丸が匕首を手にしてひょっこり現れ……
「ちょっと、これ噛んでくれるか?」
「はい?」
「よおく噛んだ方がいいよ。ちょっと痛いから」
「え?」
そして鞘からスッーと刃を抜き出し……。
次には達男らのアジトに乗り込むや、亜仁丸がまずは5人を正座させるのだが、決して怒鳴ったりなどしない。
あくまでも穏やかで軽いノリ……逆にそれが不気味すぎる。
「よおし、いいか。お前らな、これから一人ずつ‘早よ、クソせいや’って言ってくれるか?この人に聞いてもらうから」
これは達男らが強盗時に……トイレに入っていたボディガードを馬鹿にした奴がいたからで、その犯人を特定するため、その時と同じ言葉を順番に言わせるのだ。
該当者が判明し、無言でそいつを2階へと引きずっていき……と程なくしてドタバタという音がしたかと思うや、断末魔の悲鳴が聞こえてくる。
その間、カメラは怯えながら上の様子を窺う達男らを映し出す。
自分たちはこれからどういう方法で殺されるのか?……という絶望の表情を。
嬲り殺す場面は見せない演出が想像力を煽り、恐怖感を倍増させる。
すると亜仁丸は、
「さあて、オメエラはどうすっかな?医者からはよ、一日4人しか殺しちゃダメだって言われてんだよ。さっき一人殺ったろ。いま上で殺ってるとこだろ。達男は鼻と耳とチンポ斬り取って土門さんのとこに連れてくだろ。つうことはだ、一人は生き残れるってワケだ」
そう言うや、ニヤニヤ笑いながらダブルロシアンルーレットを強要する!
一瞬の隙をついて達男らは逃げ出すも、達男を以外の連中は射殺されてしまい……ここから復讐劇と相成るワケです。
役者陣が皆、素晴らしい。
たどたどしい日本語を話す日系ペルー人二世のタクシードライバー役の役所広司。
ひとりケーナを吹き、飄々としていて掴みどころのない主人公・寒竹を見事に演じきっています。
(数多い役所広司の主演作の中でもこの『KAMIKAZE TAXI』が真の代表作だと思う)
高橋和也の切羽詰まった自暴自棄気味の演技も秀逸。
ゲス野郎の大物政治家・内藤武敏は憎々しいの一言。
シュートボクシングの総帥・シーザー武志の強面ボディガード役もはまりにはまっている。
外見はエリートサラリーマン風のインテリヤクザを演じた矢島健一のどこか憎めないキャラも必見。
達男に殺される直前に、
「俺は立教出てんだぜ。その俺がよ、朝鮮戦争とベトナム戦争の区別もつかねえような会長なんかの下でいつまでもやってられっかよ」
と愚痴る様が、人間くさくて可笑しくもある。
なぜかチャップリンの扮装の田口トモロヲの壊れっぷりにも注目を。
そしてスタイリッシュなヤクザの組長役のミッキー・カーチスがいい味を出しまくり!
寒竹のタクシーから流れるペルーの民族音楽を耳にした際のシーンが印象に残る。
「ミュージックが聞こえる……何か胸にくるなぁ。お友達になりてえなぁ、あの運ちゃんと」
「じゃあ、お食事にでもお誘いしますか?」
「それも照れ臭えだろ」
最後の最後にその寒竹に撃たれて死ぬ間際のやり取りも最高です。
「悪りいけどよ、最初っから説明してくれよ。ワケも分からずに死んでくのも嫌だからよ」
「アー、ソウデスカ。ワタシ、ペルーカラキマシタデス。コドモノコロニ……」
「おいおい、35年分くらい、はしょっちゃってくんねえか。俺にはもう時間がねえんだからよ」
「アー、ソウデスカ。スイマセン」
拳銃で撃っておきながら、バカ丁寧に自分の説明をする寒竹の様がシニカル且つユニークだ。
それと何といっても片岡礼子がメチャメチャいいんです!
レンタルビデオ屋の床に座り込んだまま裸になって服を着替えるシーンも印象的だが、エスカレートし過ぎたSMプレイの被害に遭い、顔面をズタズタにされた際のアップも強烈。
以後、彼女はずっと顔にでっかい絆創膏を貼り付けた姿で登場するのだけれど、これが妙にセクシーでカッコよくもある。
(脱ぎっぷりがいいのも魅力だ)
この作品と同じ頃の時期に『愛の新世界』(大傑作!)でもインパクトある演技を見せていた片岡礼子。
彼女が最も輝いていた時代と言ってもいいでしょう。(最近はちょっと低迷気味なのが惜しいなぁ。大好きな女優なのに……)
ちなみに今回のDVDはオリジナルバージョンではなく、何箇所かカットされているインターナショナル・バージョン。
温泉旅館での自己開発セミナーのシーンは、ばっさり切られている。
カットされたシーンは、特典映像としての収録となっていました。