Joe Hendersonほど過小評価されているMusicianはいないだろう。Sax奏者としてもComposerとしてもBandleaderとしても、ジャンルを越えて飽くなき音楽への探求心と創造性に満ち溢れていた60年代後半~70年代のHendersonが、ようやく再評価されるようになったとはいえ、Hard Bopを演奏しながらBebopの伝統のみならずR&BやLatin、Avant-Gardeまで取り入れたキャリア初期のHendersonをバンドに迎え入れたHorace Silverがそうであったように、まだまだ成し遂げてきた偉大な功績に対して評価がまったく追いついていない。Blue Note期や90年代以降のVerve移籍後はともかく、一番重要となるHendersonのMilestone時代に残した名作の数々は未だにピント外れの評価をしている頭の固いJazz評論家がいることは残念である。フォービートであることに拘り電気楽器の使用を嫌悪する古い価値観に捕らわれたJazzファンがいることは仕方がない事かもしれないが、Hendersonがジャンルの垣根を越えて追及した独創的でInnovativeな挑戦こそがBlues、Ragtime、Afro-Cuban、Gospel、Traditional Music、Latin、R&B、Classical Musicと異種配合してきたJazz本来の進むべき道のひとつでありProgressiveなJazzといえるだろう。San Franciscoに移住した後のHendersonはNew Yorkと距離をおくことによって独自の音楽性を深化させていった。また78年から82年までSan Francisco Conservatory of Musicで教鞭をとり教育者としても多大な影響を与えた人物といえるが、何より、そのジャンルを越境しながら挑戦し続けた姿勢は、Hendersonに影響を受け、アルバムにCreditをするようになったMichael Breckerのみならず西海岸から登場したKamasi WashingtonやThundercat、Miguel Atwood-Fergusonといった現代の新世代ともいえるJazz Musicianにも継承され、強く影響を与えていると思われる。
『Multiple』はJoe Hendersonが73年にMilestoneからリリースしたアルバム。前作『Black Is The Color』から参加しているベースにDavid Holland、ドラムスにJack DeJohnetteに加えて鍵盤にLarry Willisという強力な布陣。本作も前作同様にOver Dubbingを効果的に使っている点が興味深い。
アルバム1発目は“Tress-Cun-Deo-La”。なんといきなり呪術的なVoiceが飛び出してきてビックリ。James Blood Ulmerがギターを弾き(あくまでバッキングのみでソロは弾かないので過度な期待は禁物)、エレピがCoolに響く中、HollandとDeJohnetteによる強力なリズム隊をバックにHendersonはTenor Saxで自由奔放にBlowしていく。HendersonのVoiceとFlute、Soprano Sax、Ulmerのギターは後からOver Dubしたものだろう。Arthur JenkinsのPercussion、Congasが効果を上げている。
Jack DeJohnetteが結成したCompostの72年のDebut Albumにも収録されていたDeJohnette作の“Bwaata”はHypnoticなエレピと陽気なMelodyのContrastが面白い。牧歌的な曲調のこの曲が登場して仄々としているのも束の間、
“Song For Sinners”でもWillisが弾くMagicalでMeditativeなエレピをバックに再び不気味なVoiceが登場する。ここではJohn Tohmasがギターを弾いている。
David Holland作の“Turned Around”ではHendersonのTenor Saxソロが炸裂。これは最高。そしてLarry WillisのImaginativeなエレピ・ソロもイイ感じ。
アルバム最後を飾るのは、このアルバムでHenderson3曲目の自作曲“Me, Among Others”。ここでもWillisのMysteriousなエレピで始まり、HendersonがFree気味に飛翔していくソロが圧巻。
(Hit-C Fiore)
