Dieter Moebiusの音楽を1日中聴いていたくなることがある。唐突に、そんな日が1年に何回かやって来る。意味も目的もない音楽、そこにただ音が存在しているだけ、それがありふれた日常の中で、突然、何の意図もなく奇妙な音の粒子となって鳴り響き、唐突に現れては消え、いつの間にか時空は歪み始めて、どこか知らない世界に佇んでいる自分に気付くのである。それは理詰めではなく、あくまでも感覚や感性にのみ基づいた音世界。Klusterで、Conrad SchnitzlerとHans-Joachim Roedeliusと3人で作り上げた世界とも異なり、HarmoniaでRoedeliusとMichael Rotherとで創り上げたMagicalな空間でもなく、Brian EnoとRoedeliusと共に生み出されたCoolでAmbientな幻覚とも違った、Dieter Moebiusの世界。勿論、Clusterのマッタリ心地良い無常観でもなく、Mœbius & PlankのようなPunkな先鋭さも持ち合わせていない。Gerd BeerbohmとのDuoとなるMoebius & Beerbohm名義でリリースされた『Strange Music』や『Double Cut』、Moebius名義で83年にリリースされた『Tonspuren』での無機質で虚無的ともいえる奇妙な音の粒子が乱反射していく極めて異端な世界。それがHardcoreなまでに突き詰められた本作はKarsten Wichniarz監督により女優のBirgit Anders主演で86年に公開された映画『Blue Moon』のSoundtrack盤である。ジャケットから察するにThriller/Mystery映画のようでもあり、なんとなくB級映画のような、タイトルもなんとなくそれっぽい感じではある。内容を観ていないから、あくまでも想像であるが。しかし、そんなことは、どうでも良いのかもしれない。むしろ映画は音を消し映像だけ流して、このサントラを大音量で聴いていた方が気分であるだろう。もはやRhythmもMelodyすらない、なんて潔くて、心地良い音世界なのだろうか。
『Blue Moon』は86年に公開されたDieter Moebiusが音楽を担当した同名映画のサントラ盤。
アルバム1曲目は“Intro 2”。なぜに2なのか?全く意味がないとばかりに、この時代らしいAnalog SynthesizerがHumorousに鳴り響くMoebius節。
一転して哀感を湛えたSynthesizerが虚空に鳴り響く“Falsche Ruhe”。
“Ablenkung”は、Moebiusらしいお惚けなSynthesizerがMinimalに鳴り響いていくのが気持ち良すぎ。
“Im Wedding”もただ只管に摩訶不思議な音塊が意味もなく木霊していくMoebiusの音世界に脱帽。
“Dust Off”は珍しくDrum Machineが使われているが、それすら全く何の意味もなさずStrangeなSynthesizerが、ただ意味もなく、だらしなく流されていくのが最高に心地良い。
“Am See”は満点の星空から大地に降り注ぐ幻の光のような感じ。最高だなあ。
B面はよりHardcoreにStrangeな音響だけで成り立つ“Bleifuß 1+2”で始まる。ここからB面はMelodyすらなく、その異端な感覚を楽しむ。
“Kriminelle Energie”はStrange極まりない音響の美学。このふてぶてしいまでに潔く気持ち良い音ときたら。
“Traurige Zita”は口琴のような音響が効果音とベースのようなSnthesizerと共にMinimalに響いていく。
“Hoffnungsschimmer”もJew's Harpというか口琴風のSoundが淡々と
鳴り響く。
アルバム最後をシメるのは“Das Ende”。このゆったりマッタリ不思議な感じが最高ですなあ。
(Hit-C Fiore)