John Prine/John Prine | BLACK CHERRY

BLACK CHERRY

JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

 それにしても、今回の新型コロナウィルスは世界中で多くの人々の命を奪い、社会や経済を混乱に陥らせ、世界的規模で計り知れない損失を与えることになった。それは経済的な規模のみならず文化や教育や芸術、スポーツ、医療、環境、介護、流通、通信といったありとあらゆる分野に深刻な打撃を与え、深く大きな爪痕を残した。そしてあまりにも多くのものを失った。音楽の世界でも、その影響は計り知れない。Folk/Countryの分野で数々の名曲を世に送り出してきた名匠John Prineもまた、その尊い命を新型コロナによる合併症で失うことになった。4月7日、Prineはこの世に別れを告げたのだった。そして、Prineの歌“Paradise”の願いに沿ってKentuckyのGreen Riverに遺灰の半分は撒かれ、残り半分はChicagoの両親の隣に埋葬された。

 

 John PrineIllinois州Maywood生まれのSinger-Songwriterである。14歳からギターを弾きはじめ、Vietnam戦争の時にU.S. Armyでドイツに駐留後、帰国してChicago郵便配達の仕事をしながら60年代後半に音楽活動を開始している。ChicagoのArmitage AvenueにあるFifth PegというBarで自作の歌を歌い始めたPrineはFolk Revivalの波にものって次第にその評判を高めていった。Chicago Sun-Times紙のRoger Ebertが"歌う郵便配達人"として初めてPrineを取り上げると、その名は忽ち拡がっていった。そして、ある晩、Steve Goodmanに連れられてそのステージを観にいったKris Kristoffersonによって、その才能はとうとう表に出ることになるのであった。自分がPrineの名を初めて目にしたのは大好きなBonnie Raittのアルバム『Streetlights』に収録されていた“Angel From Montgomery”という曲の作者としてであった。楽曲も演奏も勿論BonnieのVocalも素晴らしく、何よりそこで歌われていた南部詩情に満ちた世界は格別であった。StorytellerとしてのPrineの才能が発揮された、まるで古い映画のシーンが目の前に思い浮かぶようなImaginativeなこの曲は何回聴いても色褪せることのないものだ。ちなみに2006年に公開された映画『Broken Bridges』は元々『Angel From Montgomery』というタイトルであったという。すぐさま、作者のJohn Prineのアルバムを探し求めるようになったのは言うまでもない。本作はJohn Prineのデビュー・アルバムにして名盤である。バックを務めるのはベースにMike Leech、ドラムスにGene Chrisman、ギターにReggie Young、ピアノにBobby Wood、OrganにBobby EmmonsといったElvis Presleyのバックを務めた連中が中心となったThe Memphis Boysの面々にPedal Steel奏者Leo LeBlancにギターのJohnny Christopherといった腕達者な名手が集結。友人のSteve GoodmanもBacking Vocalで参加している。ProducerArif Mardinである。“Angel From Montgomery”のみならず、本作は多くのMusicianにCoverされた名曲揃いである。

 

 『John Prine』はJohn Prine71年にリリースしたアルバム。

アルバム1発目“Illegal Smile”。エレピアコギをバックにしたSimpleなサウンドにPrineの人懐っこいVocalが和みますなあ。Leo LeBlancのPedal Steel Guitarがイイ味を出している。

陽気なHippie Country TuneSpanish Pipedream”。

年を重ねることについて考えることが増えてきた自分にとっても非常に感慨深い“Hello In There”はPrineらしい暖かい視線に満ち溢れたナンバー。年老いた夫婦に対する慈愛に満ちたPrineのVocalが良い。

Sam Stone”は"Great Society Conflict Veteran's Blues"というタイトルが付けられていた、Overdoseで命を失った薬物有毒の退役軍人の歌。淡々と歌われるが故に、これも心に響いていく歌である。

Prineの兄弟だというDave PrineFiddleがイイ感じの“Paradise”は父親のために書いたナンバー。かつて石炭の採掘で沸いた上述のKentuckyGreen Riverに起きた出来事について書かれたこの曲はBluegrassのStandardとなっている。

Pretty Good”はタメの効いたリズム隊エレピHammondが実にイイ感じ。Reggie Youngのギターが最高。

Anti-War Songの“Your Flag Decal Won't Get You Into Heaven Anymore”は排外主義を愛国心だと勘違いした人々に聴かせたい曲。

Far From Me”もPedal Steelが何ともいえない南部詩情をかき立てる。

上述の名曲中の名曲Angel From Montgomery”。南部の年老いた女性を描いたこの曲はBonnie Raitt以外にも多くのMusicianに愛され数多くのCoverが生まれている。

アコギがジャンジャカQuiet Man”もPrineの和みのVocalが最高。

Steve GoodmanもCoverした3拍子の寓話Donald And Lydia”。

Six O'Clock News”もProineらしい慈愛に満ちたナンバー。

アルバム最後をシメるのは古き良き南部の世界Flashback Blues”。

 

John Prineのご冥福を心よりお祈りいたします。

 

Angel From Montgomery/Bonnie Raitt & John Prine

(Hit-C Fiore)