どんなに優れたMusicianであっても、彼らが素晴らしい作品を幾つも残してきたとしても、明らかにコレはやっちまったなあという作品はあるものだろう。人間なんだから完璧なんてありえないし、誰にでも間違いはあるものなのだ。例えばMiles Davisだって『Quiet Nights』があるし、Gentle Giantだって『Giant For A Day』があり、Charles Mingusも『Town Hall Concert』、Bob Dylanも『Self Portrait』があるのだから。しかし、制作者からも見放され、彼らの熱心なファンや批評家、その他の第三者からも概ね評価を得られず、長い間見向きもされず葬り去られてきた作品も、ある人間にとっては、意外なことに面白く感じられて、長らく聴き続けてしまうような、そこまではいかなくても、結構気に入って時々聴きたくなるようなことがあったり、アルバム全部ではなくとも部分的にツボにハマるような曲があるかもしれない。Wishbone AshがProducerにTom Dowdを迎えた悪名高き本作も、自分にとってはそういう作品である。Ashといえば初期の、英国の薫り漂う優美で抒情的な、時に劇的な展開で心を揺さぶられる演奏や楽曲、Ensembleが最高であることは間違いない。それは彼らの3rdアルバムで頂点に達し、英国音楽史に残る金字塔として未だに多くの人々の支持を受けている。そして英国的形式美の極みまで達した彼らが次に目指したのは米国音楽志向という路線であった。古くからのファンの中にはその路線変更を批判する人も多かったかもしれないが、前作となるBill SzymczykのProduceによる『There's The Rub』では脱退したギタリストのTed Turnerに代わって加入したLaurie Wisefieldが重責を果たし、曲も演奏も充実していた。本作はLaurieが加入して2作目であるが、ギターのみならず作曲とVocalに大活躍している。しかし、そこが裏目に出たというか、Songwriterとしての才能はあるのだが、Vocalに関してはまだまだ若くて線が細すぎるのである。前作に比べても全体的に奥行きのないこじんまりとした感じがしてしまう。だからといって全てがダメというわけではなく、曲も演奏もそれなりの水準であり、逆にこの時期のAshでしか味わえない部分もあって個人的には結構気に入っているのである。
『Locked In』はWishbone Ashが76年にMCAからリリースしたアルバム。
アルバム1発目は“Rest In Peace”。技巧的なArpeggioで始まるTempoの良い曲であり、演奏も熱いしツイン・ギターも大活躍なのだが、Country Tasteが感じられるところが評価の分かれ目か。Talking Modulatorが使われているのが面白い。この曲調になぜアメリカンな味付けなのか、ミスマッチ感が勿体ない。
揺らめくエレピとSlide Guitarが心地良い“No Water In The Well”。Vocalは作者のLaurie。やや線が細いが曲調には合っている。ここでも全体的に70年代中期のCity Music的な米国音楽の要素が取り入れられた楽曲も演奏もイイ感じなのだが、これをAshがやると、以前からのファンには許せない感じになるのだろう。
“Moonshine”はFunkyで、これまた米国的な乾いた味わいが感じられ、曲は良いのだが、Discotiqueなベース・ラインやカッティングなどは初期のファンの方からはお叱りをいただきそうな仕上がりである。
Martin Turnerが歌い上げるSouthern Soul Balladといった“She Was My Best Friend”。決して上手くはないが味のあるMartinのVocalだが、ここでは女性Chorusも従えて、頑張り過ぎて、その良さが発揮されていないのが残念だ。
LaurieとSteveの共作“It Started In Heaven”も女性Chorusが加わるのだが、ここでのVocalは曲調とマッチしておらずチョッといただけない。
アルバムで一番お気に入りのAsh流Funk“Half Past Lovin'”。Talking Modulatorがここでは効果的でMartinのVocalもイイ感じ。
Swampな香りがたまらない“Trust In You”。ツイン・リードもカッコイイ。
アルバム最後をシメるのは“Say Goodbye”。最後になってようやく英国的な抒情たっぷりのナンバー。泣けと言わんばかりのギター・ソロは日本人ならグッとくるはず。
◎Half Past Lovin'/Wishbone Ash
(Hit-C Fiore)